最近のトラックバック

« トランクショウ三昧 | トップページ | Shoes from USA(アメリカ土産の靴) »

2015年10月31日 (土)

Put on romance(ロマンを履く)

ロシアンレインディア(ロシアンカーフ)は最も希少な革として知られている。今から200年以上前の1786年、ロシアンカーフと麻を積載した「キャサリナ・ボン・フレンズバーグ 号」が嵐の為、英国近海のプリマス湾で沈没。その後1973年になって沈没船を引き上げたところ積荷の中からロシアンカーフが発見されたことに端を発する。

塩分を取り除き、再び油分を加えて復刻させた革は独特のダイア柄と共に200年以上の時を超えて蘇った「伝説の革」としてデビュー。様々な皮革メーカーが製品化していった。近年、その希少性に拍車がかかり今では入手の難しい革になっているようだ。そこで今回はロシアンカーフの靴を中心にそのケアを紹介しようと思う。

1.革の表面

00a

菱形のパターンが一目で分かる革の特徴。当時の伝統的な技法である植物なめしの後に木製の型押しブロックを用いてダイヤ柄を型押ししたとされている。特に植物性のオイル(白樺オイル)を仕上げに用いているらしく、それが錆と似た独特のにおいの元となっていると書かれていた。

もう少し詳しく紹介したい。

2.シューレースを外す

01

ロシアンカーフは、牛革より油分や保湿成分が抜けやすい。新品の状態でさえひび割れが見られるほどだ。数年で亀裂が入ったロシアンカーフの靴を見たこともあった。購入時から異なる覚悟が求められよう。長く使うには保湿・補油が大切、少々面倒でも靴を磨く時は毎回靴紐を外している。

3.デリケートクリームを塗る

02

前述したように保湿成分が抜けやすいため、他の靴よりも短めの間隔でデリケートクリームを塗ることにしている。モウブレイもサフィールも良いが、コラーゲンを含む皮革用のクリームが出ているらしい。一度使ってみようかと思っている。写真は特にクラックの入りやすい屈曲部分にデリケートクリームを塗っているところ。

4.トップラインのクラック

03

トップラインの微かなクラック。元々200年以上前の革を靴の素材に使うのだから通常のカーフと同じに考えてはいけない。「ロマンを履く」気持ちが肝要だろう。ロシアンカーフの靴は「傷んで履けなくるのでは…」と誂えるのを躊躇するハードルの高さがあるが、その分希少性というオーラは抜きんでている。

5.タン部分

05

タン部分も手抜きせず保湿成分のクリームを塗る。タンの断面を見ると革自体の厚みは通常のカーフと変わらないが、しなやかさが足りないようだ。釣込み時に革が裂けやすいと聞くのもそのあたりが理由なのだろうか…。因みに購入後12年が経過したが未だに鼻を近づけると独特の匂いがする。

6.ライニングの手入れ

06

忘れてならないのがロシアンカーフを貼ったライニングの手入れ。引き揚げられたトナカイの革が全てが良好な訳ではなく傷んで使えない部分もあったという。従って靴のアッパーとしては難しい場合はライニングに用いることもある。内側からクラックが発生しないよう、デリケートクリームを忘れず塗る。

7.スポット

08

革の表面に見られるスポット(黒い染み)。納品時から付いていたもので、長い間海底に沈むうちに出来た天然のアンティーク仕上げということになる。こうした細かな部分を気にしだすと革の魅力も痘痕に見える。靴に向いた素材かどうかではなく、ロシアンカーフの靴を履いてみたいかどうかなのだ。

8.乳化性クリームの塗布

10

ベジタブルタンニンなめしの革はロシアンカーフに限らず染料の定着が弱いそうだ。従ってリムーバーやクリーナー、クリームやワックスでも色落ちすることがあるらしい。ロウ成分の少ないクリーム類が良いとのことで、条件にあったビーズリッチクリームを使ってみた。

9.ブラッシング

11

白のクリームを塗った後、布で拭いただけではどうしてもダイヤ柄の溝にクリームが残る。そこでクリームを塗った後専用のブラシで溝のクリームを掻き出すようブラッシングしていく。パーフォレーションの穴やアイレット部分、革の重なり部分は毛先を穴に入れながらブラシをかけてみた。

10.保水・保湿のケア終了

12

ワックスを塗る前の靴。クレバリーで2003年にオーダーしたもので、当時はジョンロブ既成が8万円代、クレバリーでも20万円代でオーダーしたと思う。最近は90万円近いらしく、カーフ素材で使い勝手を良くしたニューロシアンカーフが出てきているものの、どうしても革の雰囲気が違うようだ。

11.ワックスを塗る

14

ケアする時ロウ分は少ない方が良いと聞いたのでごく少量塗るようにした。明るめのワックス(ライトブラウン)を選んで軽く塗る。選んだのは天然成分のビーズワックス。塗った瞬間から革に染み込んでいく様子からも、揮発しやすい革というのが実感できる。

12.アーチ部分からウェルト付近

15

アーチ部分やコバ周辺にもワックスを塗りながら油分抜けを補っていく。クラックが発生するのは革が乾ききってしまうからで、手入れを怠ればそこから亀裂が走り始めるかもしれない。余談だが、ウェルトの出し縫いはカジュアル用にと思い、控えめではあるが生成色でを指定した。

13.靴紐の選択

16

ワックスを塗って暫く乾燥、ブラッシングをすると見違えるように艶やかになる。最後に靴紐を通すが、せっかくの機会と思い、カントリー靴らしく丸紐を通して従来の平紐と見比べてみた。靴の雰囲気からは左の丸紐の方がぴたりと来る。この後、左片足(画面では右側)を丸紐に替えた。

14.ケアの終了

17

丸紐に替えて再びブラッシング。英国靴らしいショートノーズのセミブローグはフォスターの松田氏によれば小柄な日本人には少々難しいデザインだと聞いた。自分にはノーズの長い靴を見慣れたせいか新鮮なこともあって、このところ履く機会が増えている。

それにしても230年近い時を超え、しかも海の中に沈んでいた革が再び使用できるという事実に人はまず驚くのではないだろうか。天然成分を使って鞣した革のもつ耐久性が、当時はごくありふれていたであろうトナカイの革をロシアンカーフという名の希少な革に変えたことになる。

ロシアンカーフで靴を仕立た友人も革の由来に並々ならぬ興味をもっていた。単に数の少ない希少な革で仕立てるという珍しさからではなく、革のもつロマンを履きたかったのだろう。生憎彼の靴は既にクラックが入っているが、何事もなかったかのように今も平然と履いているらしい。

« トランクショウ三昧 | トップページ | Shoes from USA(アメリカ土産の靴) »

誂え靴(Bespoke shoes)」カテゴリの記事

コメント

またまた恥ずかしながら、ロシアンカーフというものを初めて知りました。
 
写真を拝見したところでは、所謂「革シボ」のような印象で、とても渋い感じがします。
 
昔の「MEN'S CLUB」などで、革シボは傷が目立ちにくいと紹介されていた記憶がありますが、ロシアンカーフはとてもデリケート………というか、メンテナンスの手間がすごくかかるのですね。
本当に靴が、そしてロシアンカーフ(の味わい)が好きでなければ、履きこなせないと思います。ファッション音痴に加え、物臭で靴のメンテなどは年に何回というレベルの私などでは無理、というよりそもそも足を通す資格がないと靴の神様に叱られそうです(笑)。

 
管理人様の高いセンスと靴への深い愛情に、再敬礼です。

管理人様


以前お話しされていたクレバリーの靴ですね。

管理人様がオーダーされた当時と同じ、20万円で今でもオーダーできるのなら、迷わずしたいなと思いました。(ケアは根気がいりそうですが)

管理人様はセミブローグでオーダーされたようですが、ローファーなんかでも良いかなと思いました。

oisan様

勿体ないお言葉を頂戴し、有難くかんじますとともに、何やら恐縮してしまいます。

通常のシボ革ならばもっとメンテナンスも楽なのでしょうが何しろ230年前の革ですので普通の革と同じに、という訳には行かないかと思いまして…。

私もものぐさで、片づけもヘタですので思い立った時にまとめてやる口です。この靴も靴箱のメンテ時に合わせて手入れを行ったところです。

やまだ様

お休みのところコメントを頂き有難う御座います。

ロシアンカーフのローファー…なんて素敵な誘惑でしょうか。思わずオーダーしたくなりましたがアリゲーターと同じ価格なので思いとどまりそうです。

本当についこの前までアリゲーターでも30万円くらいだったのですがここでぐっと値段が上がりました。尤もほとんど欲しいものはオーダーしてしまったので後は履きこなしていくだけですが。

それが中々難しくて、つい好きなカジュアル靴を履いてしまったり、ニューバランスなどスニーカーで出かけたくなってしまったりします。何よりオフィシャルの仕事から遠ざかったら黒靴は殆ど履かないかと思うとどうしようかと…

もう少し先になりそうですがその時になったら考えることとします。

ロマンを履く…憧れる言葉です。
僕もいつかはロシアンレインディアを、と思いますが、なかなか市場に出回りませんし、アップチャージも恐ろしいレベルになってしまいましたから、どうしたものか…と思考を巡らせています(汗)こっそりロマンを楽しむという事で中敷きにするならばケアも楽ですし、良いかなぁと思いますが半端かもしれませんね~

某所にてロシアンレインディアの一枚革を見せて頂きましたが、巻いた状態で袋に入れて保管されていたので、匂いが飛んでいなくて、まさにこれぞ!という香りを味わえました(笑)巷で言われているほど、強烈ではなく、独特の木質の雰囲気を感じる匂いだと思いました。

管理人様、

ライニングまですべてロシアンレインディアとは驚愕ですね。独特の革質と型押しも相まって、甲に優しい履き皺が美しいです。こういう履き皺が好きなのですが、ロシアンレインディアの靴を手に入れる以外には得る事ができない、とても贅沢なものなんだろうと思っています。

当方唯一所有するロシアンレインディア製品にアルバートサーストンのブレイシスがあります。ご紹介されている靴の履き口同様、こちらのブレイシスもはじめから所々切れている箇所があります。もちろん所々黒いシミのようなスポットも。残念ながら、購入当時に香っていた特有の香りはどこかへ行ってしまいました。この革、ボタンの付け外しの際に少し引っ張られただけですぐ銀面にクラックが入るので、引っぱりにはとても弱いものの様に思います。
真新しいカーフ等に比べ、乾燥しているドライな感触は、船底での200年と言う歳月によるものなのか。もともとそういう皮なのか。手持ちのトナカイ革の手袋も、ディアスキンに似たドライな感触がありますので、元々の性質なのではないかと考えています。
型押しされた銀面からは分かりにくいですが、床面を触るとカーフのような幼体から取った革に比べ、繊維が荒く、少しオックスハイドなどの成体を思わせる革の感触があります。多分、このような繊維が粗なところもドライな感触を生んでいる要因、油分が抜け易い原因なのではと思う次第です。
長年の疑問なのは、なぜこのユニークな革の供給源が沈没したキャサリナ・ボン・フレンズバーグ号からだけなのか?ということです。当時この革を供給していたタンナーが存在するはずですし、この船に乗せた革が最初で最後のものとは考えにくいです。どこのタンナーが、どういう目的のために鞣したものなのか?何か資料などをご存知でしたらご教授いただければ幸いです。
長々と失礼しました。

シロさん

休日のひと時のコメント有難う御座います。

私のロシアンカーフは鼻を近づけると分かりますが、靴箱の中に充満するほどではありません。以前は結構匂っていたことを思い返すと、だいぶ抜けたのだなぁと実感しています。

シロさんがご覧になったのは日本の工房かと思いますが、中々革を持っているワークショップがない中でご覧になれたのは貴重な体験でしたね。

中敷はささくれがあるなど革質がアッパーに適さないものを持ってくるので費用はそれほど掛からないかと思いますが、もし中敷に使うと後でやっぱりアッパーに使った靴が欲しいという誘惑が増すかもしれません。

罪作りな革ですね。

れの様

お休みのところコメントを頂き有難う御座います。

アルバートサーストンのブレイシーズをお持ちとのこと…確か限定品だった記憶があります。それをよくご覧になられての考察、流石です。

海底に230年もの間眠っていたことで現にこうしてロシアンカーフの存在を知ることが出来ましたが、もし発見されなければ誰もその存在を知らない、つまり革は地上には残っていないことになります。

発見されたことで鞣し方法を探ろうとしてもロシア革命によって失われているので追跡もままならない、今後の歴史的発見にゆだねられている対象物なのではないかと思います。

私も殆どのことが分からず、こうして革を見ては当時の事を想像する程度です。お役に立てずすいません。

こんばんは。
素敵な靴だな、ペッカリーの風合いと似ているかな?と思ったら、ロシアンレインディアですと!
ロシアンレインディアを使った本格靴の写真はネットでも少ないので、貴重な情報に感謝します。

タイトルの「ロマンを履く」、まさにその通りですね。
というのも、トナカイの革自体は格段珍しいものでもなく、
引き上げられたトナカイの革が今は絶滅したトナカイ種というわけでもなく、
失われたなめし製法も現代の手間をかけた高級なめし方法を用いれば負けないぐらいの品質にする事も出来るはず。
つまり革そのもの自体に特別な価値は無いはず。

ではロシアンレインディアの何が珍しくて価値があるのか、ですがそれは「沈没船から200年以上の時を経て引き揚げられた革である」という事実、つまりその歴史が価値なのですね。
まさに「ロマンを履く」だと思います。

トナカイの革の靴が履きたければ幾らでも作れるし履けるのです。
でもその歴史のあるロマンを履くとなると、それはロシアンレインディアしか出来ないと思っています。

何でもない物でもその人にとって思い出があれば価値のある物となるように、思いのあるかないかで価値があるか無いかが決まるのでしょう。

そういった意味では完全に趣味の世界であって、実用を考えるべきではないのかもしれませんね。
つまりクラックやシミに最大限の気を使いながらも、発生してしまったらその時はその時で気にしないのが確かに正しいのかもしれません。

あと管理人様的には、
この恐ろしいまでの破損が生じやすい革を釣り込んで製靴する職人の手間隙と技術と精神的負担(笑)という製作側の努力という価値も、この靴への愛着に拍車をかけているのではないでしょうか。
管理人様はいつも製作する職人側の努力と技術を理解して敬意を払っておられますので、そう感じました。

カメリア様

週末の夜遅く、コメントをいただき有難う御座います。

私が上手く言えないことを素晴らしい文章にして頂き感謝申し上げます。230年もの間海底で眠っていた革をもう一度なめし直して使おうという考え、それを靴にして履ける喜びを一般の人達にも味わわせてくれたこと、こうした一つ一つのことにロマンを感じざるをえません。

最も上質な革はとうの昔にそれなりの人達に分けられてしまったことと思います。私達が目にしたり、売られているものはシミやクラックが多いのかもしれません。それでも長い間耐え海底で耐え抜いた革を仕立て上げた職人の技やその歴史に感謝しつつ、靴ですから履いて味える幸せを満喫しています。

以前上京したときに、リーガル東京の二階で高級なleatherを収納した引き出しにあったこのロシアンカーフを見せて貰ったのを思い出しました!

浦野様

お盆当日のコメントをいただき有難うございます。

リーガルもロンドンのニュー&リングウッドの靴を別注で作っていた関係でしょうか、限定ビスポークで展開していたことを思い出しました。流石は日本の靴メーカーの雄、日本製靴です(^_^)

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« トランクショウ三昧 | トップページ | Shoes from USA(アメリカ土産の靴) »