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2015年10月10日 (土)

ウィーザー公の靴を誂える

ロンドンの名店、ジョージクレバリーとの付き合いは1998年に遡る。海外の駐在から帰国後すぐにロンドンを訪問、クレバリーが再興してからちょうど5年が経っていた。当時はまだ店の規模も小さく訪れる客はまばら、狭い店の階段をジョン・カネーラとジョージ・グラスゴーが行き来していたことを思い出す。

その後カネーラは引退、グラフゴーもジュニアにトランクショウを任せるようになった。いつの間にか17年の月日が流れ、店は新しいスタッフと共に大繁盛。自身の靴も27足を超えて、新たに28足目が納品されたところだ。そこで今回は届いたばかりの靴を紹介しようと思う。

1.28足目の靴

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届いたばかりの靴。アッパーはヒュームドオークと呼ばれるカーフ素材。履き口(トップライン)はもう一段赤みの強い革で補強がなされており、アクセントになっている。見て分かるようにデザインはカジュアル、加えて今回のタイトルが「ウィンザー公の靴を誂える」となればデザインは容易に想像がつくだろう。

続きをもう少し見ていただきたい…

2.シューズインザボックス

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大層な箱に入ってデリバリーされたのは丁度1年半前に2足オーダーしたうちの1足。空港で犬をリードしているウィンザー公の写真の靴をイメージしつつ、デザインはエドワードグリーンのバクストンを引用。ノルウェジアンスプリットトウと呼ばれるタイプで、靴愛好家はドーバーを直ぐに思い浮かべるだろう。

3.コンビネーション・カジュアル

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素材は前述したとおりヒュームドオークタンにリアルホワイトバックスキンをエプロン部分に持ってきた。リアルホワイトバックスキンはアルビノ種、つまり突然変異によって生まれた全身が白色のバック(雄のトナカイやアンテロープ)から採れた原皮を鞣したものらしく、とても希少とのことだった。

4.スマートラウンド

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暫く前に作ったラウンドトゥのアリゲーターカジュアルはつま先がショート気味だったので長めのヴァンプをリクエスト。木型をモディファイしたうえで釣り込み、出来上がってきたのが今回の靴だ。コバの張りは控え目でウェルトの目付も丁寧。何よりエプロンより前のトウラインが実に美しい。

5.ピックステッチとスキンステッチ

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エプロン部分はドーバーと同じライトアングルモカステッチ。縫い糸は白で思ったよりも太い。そのせいだろうか、縫い目のピッチ自体はドーバーやシャンボールドの方が細かい。一方、つま先部分のスキンステッチは糸が革の中を貫通する時にできる出っ張りが目立たず美しく仕上がっている。

6.アウトソール

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ヒールの積み上げ部分トップは化粧釘が4本と少ない。同じ仕様の靴を何回も見ているので今回も馴染みのボトムメイカーが担当してくれたのだろう。最近はつま先クォータインチのソールにクォーターラバーチップ、メタルトゥプレートがデフォルトなので今回もそのとおりに仕上がっている。

7.ヒールクォーター

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特に指定しないのに切り返しを入れてきたヒール部分。レイクと呼ばれる手法だろうか、踵の両外側に施されている。この工程が入ると一手間余計になる。クライアントが喜ぶことを知っていればこそ、職人の技を生かした靴に仕上げる。人たらしのクレバリーらしいやり方だ。

8.靴のアウトサイド

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革は心なしか乾燥気味のようだ。白い部分を汚さずクリームやワックスを塗りたいがはてどうしたものか…。靴好きのゲストによれば模型用のマスキングテープやマスキングゾル(乾くと粘り気のあるフィルム状になって直ぐ剥がれる)が有効らしい。良いことを教わったので早速試したい。

9.靴のインサイド

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ベヴェルドウェイストによってアーチが土踏まずにぴたりと寄り添う。履いた瞬間プシュッとと空気が抜け、歩くうちにるみる靴が足に馴染んできた。あまりの素晴らしい履き心地に思わず「パーフェクト」と言ったら、フィッターのレッパネンもグラスゴージュニアも殊の外喜んでいたようだった。

10.既成靴との比較(その1)

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前回ウィンザー公の靴として紹介したのが写真右のコンビローファー。白カーフをエプロンに用いたおかげで汚れが付き難く、急な雨にも困らないのが強みだ。一方誂えのコンビカジュアル(左)は多少履く日を選ぶが格好良さと履き心地の良さは折り紙つき。どちら選んで出かけるか迷いそうだ。

11.既成靴との比較(その2)

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クロケット(右)はつま先までエプロンを取り、カジュアルな仕上がりだがクレバリー(左)は小さなエプロンとそれより前のエレガントなつま先が特徴。エプロン自体も機械縫いのクロケットに対してクレバリーでは手縫いになっている。靴から醸し出されるオーラは誂えに分があるのは致し方ない。

今回納品されたコンビのカジュアル、実は仮縫いの時はあまりのタイトフィットに作り直しを依頼したほどだ。それがどこでどうやったのか、完成した靴はきつかったことなど微塵も感じさせない仕上がりだ。ローファーのフィッティングは難しいと聞くが、クレバリーは実に上手いと改めて実感した。

季節は既に秋、冬も遠くない。来年の春までコンビネーションカジュアルは暫しお預けだ。それでも室内で慣らし履きをしたり、白い部分を汚さずにクリームやワックスを塗ってみたりと試したいことが色々ある。近いうちに春が来たら真っ先に履く際のソックスも探しに行きたいと思っている。 

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コメント

管理人様


やはり、クロケットのものよりクレバリーのものの方が、ずっとエレガントに映りますね。
クレバリーの方の、エプロンの取り方とつま先へのつながりが、綺麗ですね。
この辺りのディテールも管理人様が指示されたのでしょうか?

大変素敵な靴、流石クレバリーだと思いました。
ローファーながら紐靴のような雰囲気なので、カジュアルになりすぎないところが良いですね。

それにしても細かい仕上げの圧巻な事・・
以前雑誌でオーベルシーの先代が、「昔は職人の細かいテクニック一つを賞賛してくれたが、今はあまりそういう人もなくなってしまった」と言っていたのを思い出します。
管理人様のように細かいテクニックに敏感な顧客がいるというのは、ビスポークメーカーならびに高級シューズメーカーにとっても喜ばしい事ではないでしょうか。

マスキングテープ&ゾルの使い方には是非ご注意下さい。
マスキングテープは粘着力の強くないもの&劣化をしていないものさえ使えば、手入れの時だけ貼る程度なら何ら問題はありませんが、

マスキングゾルに関しては未知数です(笑)
ゾルは私は革に使ったことがありませんし、何より縫い目やパーツの分かれ目などにゾルが入り込んでかなり取りにくくなる場合が予想されます。
まずは目立たぬところで様子見の程を・・・


私にとって、コンビネーションシューズはとてもお洒落度が高い印象で、しかもお洒落上級者でないと履きこなせない敷居の高さを感じます。永遠の憧れですね(笑)。
 
よく目にするのは、レースアップのウィングチップのそれですが、ローファーのコンビだと、もう大人のカジュアルの最高峰に位置するアイテムと言っていいのでは………なんて思えてなりません。
管理人さんが、どんなシチュエーション・コーディネートでこのシューズを履かれるのか、こちらも機会があればぜひ知りたいです。

やまだ様

お休みのところコメントを有難うございます。

エプロンの取り方はトウがスマートラウンドなのでその分載せるエプロンもスマートにせざるを得なかったのではないかと想像しています。元々、バクストンというエドワードグリーンの靴の写真を渡して参考にしてほしいと頼んだということもあります。

靴をビスポークする時はたいていイメージを伝えるようにしています。あまり細かなことは言いませんが、どちらかというと職人さんが分から聞いてくることの方が多いです。

今回の踵部分は全く想像していなかったので嬉しい誤算ではありました。

カメリア様

お休みのところコメントを頂き有難う御座います。

確かに職人さんが腕によりをかけて作ってくれたものを顧客が気付かずにいるとしたら、料理人ならば寂しいと思うでしょうし、靴職人ならば作り甲斐がないと悲しむかもしれませんね。

私は意外とそういった部分に凝るところがあるのですが、それで職人さんが奮起してくれれば誂え靴全体としては良い事かなとも思います。

マスキングテープ及びゾルの件、ご安心ください。元々目が悪くなる前は(老眼です汗)模型にはかなり精通していたので下地がどうなっているか、マスキングテープの粘着部分が革に与える影響は大きくないか。ゾルをステッチ部分に塗ると入り込んで取れなくならないか、ゾルが溝に残らないかなど想像がつきます(笑)

今直面している問題は白色のステッチの靴を磨くときにどうやってステッチを白いまま革に補色を兼ねてクリームを塗布するか…靴のメンテナンスで最も難しい問題に差し掛かっています。

oisan様

お休みのところコメントを頂き有難う御座います。

コンビローファーは女性の場合オンオフ問わず上手に履かれていますが、男性だと中々いません。

そこで少しは女性を見習って、まずはやはり休みの日にジーンズやコットンパンツに合わせて、爽やかに履いてみたいと思います。次に初夏のクールビズ全盛時ならば金曜日にオフィスにこっそりと履いて行くのもありかなと思っています。

仕事で履いて行く場合は少々暑いですがリネンやコットンのジャケットを羽織って同素材のパンツと合わせて、ついでにマドラスやリネン混のネクタイを締めて、なんて夢想しています(笑)

もっと簡単に普通のローファーと思って履くのもいいかもしれません。ポロシャツにジーンズと合わせても悪くないかもしれません。

oisan様のお蔭で色々な着こなし案を頭に思い浮かべる機会が出来ました。来春までにもう少し具体的に考えてみます。貴重な機会を有難うございました!!

ヒールのステッチ(レイク)素晴らしいですね。
私が今、フォスターにお願いしている靴もヒールのステッチがレイクでした。

jubilee39ms様

最新の靴、仮縫いを拝見させて頂いたかと思いますが、同じように踵部分に切り返しがあったと記憶しています。クレバリーではよくやる手法のようで、プレーンで印象の薄い部分に用いるだけでぐっと雰囲気が変わるなと思いました。

スキンステッチの達人が最近引退したということもあって、このところフォスターでもこのレイクと呼ばれる手法をよく耳にします。冬に届く予定のブーツもエプロン部分がレイクですので、その時にもう少し詳しく紹介してみようと思います。

その頃にはjubilee39ms様の靴も完成になる頃でしょうか。お互い見せ合いながらあれこれ談義をしたいですね。

こんにちは!少し出遅れてしまいました(笑)
素晴らしい靴の詳細レポートを有難う御座います!ブラウンカーフの柔らかい質感が印象的です。さらに、精緻なミシンステッチと迫力のあるハンドステッチのコンビネーションにしびれる思いです。僕も何足か誂え靴を作ったらカジュアルにも挑戦したいと思っているので、頭の中に焼き付けている次第です。

生成りステッチの扱いについて、少ない経験で申し上げるのも恐縮ですが、糸に蝋が染み込んでいるので多少色付きクリームを塗付してもすぐさまステッチに色が染みてしまうという事はないかと存じます。ただ、Brift Hのようなプロの仕事を見ていると、ステッチ部分にマスキングテープを貼って色付きクリームで磨いたあとに、ステッチ部分には無色のクリームを塗付するという作業をしていました。手が掛かりますが、これが一番確実なのでしょうね。

シロさん

お休みのところ、生成ステッチの手入れ方法を教えて頂きまして有難う御座います。

良いことを聞きましたので(笑)今度挑戦してみようと思います。

これから何足か紐靴をオーダーされた後、カジュアルにトライされるのですね。紐靴よりもカジュアルは1足ごとにフィッティング違うなと感じます。

今回も2足の納品のうち、コンビの方が仮縫い時はきつかったのに完成品ではバストフィットに仕上がり、コードバンは仮縫いではきつくて完成品でもややタイトな感じでした。

素材や甲部分の作りなど微妙なところが影響するのかなぁと思っています。

こんにちは。
素敵な靴ですね。

私もクロケットの同じようなコンビを持っていますが、つま先のデザインが多少異なり、クレバリーとクロケットの中間くらいまでエプロンがありますので、毎年デザインが変わっているのでしょうね。

クレバリーのは靴の命といわれるつま先とかがとがとても素敵ですね。

ちなみにクロケットのエプロン部分の手入れはどの様にしていますか?

私は手入れの方法に自信がなく買ってから3年目でようやく足を通しました。

musselwhite様

クロケットのコンビをお持ちとのこと。クロケットは既成靴メーカーの中ではコンビ靴を良く作ってくれるのでとっても頼りになります。

今回の私のものはピールネームですのでブルックスの方から指示があったのかもしれません。通常のクロケット製コンビリーファーはmusselwhite様が所有されているタイプが通常なのかもしれません。

目下無色のクリームのみを使用しております。それでも傷ついた茶色の部分は時々部分的に茶のクリームで色を載せています。

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