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2015年6月20日 (土)

仕立て屋&靴職人

テイラーを目指すならサビルロウで修行することは大きなチャンスだという。何しろ世界に名だたるテイラー街、トップオブテイラーリングの聖地と言われるくらいだ。念願のワークルームで仕事をこなし、そこで評価や成果を収めれば自身のキャリアに輝かしい経歴が加わることになる。

一方、靴職人になる場合も同じロンドンはメイフェアの靴屋を目指すという。先日、サビルロウで修行し、テイラーとなった後に靴職人としてのキャリアを重ね、ロンドンで自らのアトリエを開いた人物と会った。その人の名はAmrik Chaggar(アムリックシャガー)。そこで今回は本人のワークを紹介したい。

1.Bespoke shoes by Amrik Chaggar(アムリック・シャガー氏の靴)

Am05

アムリック・シャガー(以下ミッキーと記す)氏のビスポーク作品。ビンテージの革素材を使った美しい1足は初めてなのになぜか馴染み深い。それもそのはず、彼はフォスターで修行を重ね、名ラストメイカーテリームーア氏の下でラスト製作や靴作りの多くを学びとったからだ。

もう少しミッキーやその靴についてふれてみたい。

2.スーツ姿のミッキー

Am12

実はミッキーとは10年以上前にフォスターで1度会っている。当時は急ぎだったので二言三言言しか交わさなかったため、私を「あまり話したがらない人物」だと思っていたと後で聞いた。この日は自身が作ったダブルスーツで登場。サビルロウカットのスーツは彼が14年間ギーブス&ホークスで修行を修めた結晶と言える。

3.ミッキーの履いていた靴

Am13

彼の履いていた靴はフォスターでも良くやるブリーチの効いたセミブローグ。通常はブリーチをかけた後木型に釣り込むが、彼の靴は釣り込んでからブリーチをかけたそうで、かなりセンスが要求される方法だ。トゥデザインはthisle(シスル=アザミ)、彼はハイランドブローグと呼んでいた。

4.スペクテイターズ

Am04

こちらは茶/白のコンビネーション。勿論白革はホワイトバックスキン。正統派のスペクテイターだ。昔クレバリーで同じ茶/白の靴を作る時、「ホワイトカーフとバックスキンではどちらがいいか?」と聞いた時、フィッターは迷わず「バックスキンだ…」と答えた。手入れのし易さではなく、正統かどうか…が大切なのだろう。

5.スペクテイターズのバリエーション

Am06

こちらは上のスペクテイターズの素材違い。ホワイトをボルドーに変えただけで、春夏用から秋冬用にがらっと雰囲気が変わる。白、赤どちらのバックスキンも上質なのが写真から分かる。ミッキーは上質の革をたくさんストックしていると聞く。ソールは半カラスにダブテールだが、尖ったフィドルウェストもお手のものだ。

6.40年代のカールフロイデンベルグ

Am11

チェスナッツ色のカーフは如何にも上質そうだ。スクラッチ(傷)やグロウスマーク(成長線)のない40年代のカールフロイデンベルグとのこと。写真1と写真10のアデレイドも色違いながら同じく極上のカールフロイデンベルグ。バーガンディよりも明るく、ミッキー曰チェリーレッドと呼んでいた。

7.バックスキン

Am09

こちらは英国で鞣した上質なバックスキン、色はグレーのようだ。こんな靴で黒カーフとコンビのブーツを作ったら最上級のフォーマルブーツに仕上がりそうだ。メイカーの刻印からは英国製というこは分かるがそこまでどまり。ミッキーに言わせると、どうやらかなりの上物らしい。

8.ストロングフルブローグ

Am03

彼のビスポークシューズの大きな特徴の一つに、靴と一体になるほどピタリと収まるシューツリーが挙げられる。多くのシューツリーがマシンにっよて削られる中、完全手作業で中を刳り抜き、旅行に持ち運べる軽いツリーを完成させるそうだ。勿論内側のブランドマークも手作業によるもの。

9.タッセルスリッポン

Am01

こちらのタッセルスリッポンも完成後にブリーチをかけて色落ちさせたもの。驚くべきはモカステッチの細かさだ。一瞬ミシン縫いかと思うわせるが、ハンドメイドを信条とするミッキーが顔とも言うべきモカ部分を手で縫わないはずもない。独特の色合いは黒靴であったことを忘れさせる。

10.ワイドスクェア

Am02

このところの主流はつま先が尖ったものが多いが、この靴はかなり幅広のチゼルトゥが特徴だ。よく見るとつま先自身はやや角が取れたラインだが、コバの方がスクェアになっている。斜めから見た場合と上から見た場合で印象が変わるのはそのためだろう。写真1と見比べてほしい。同じ靴とは思えないほどだ。

11.イブニングシューズ

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日本ではオペラパンプスをビスポークする顧客は少ないだろうが、ロンドンにアトリエを持つミッキーならば社交界のあるヨーロッパの顧客も多く、当然こんな洒落たパンプスを納品する場合もある訳だ。通常のオペラパンプスより履き口が狭くリボンがぐんと上に位置している。

驚いたことにミッキーは、テイラーとしての顧客に対して自身がシューメイカーでもあることを敢えてアピールすることはないという。「ブローシャーを見て気が付けば対応するが…」と答えていたが、彼のキャリアを生かしてスーツに短靴、ジャケットスタイルに長靴などトータルコーディネイトを提案するのだと思っていた。

また、彼は「スーツは身体を丸めて優しく縫うが、靴作りは背筋を伸ばして力強く革や糸を引く。相反する2つの仕事で体のバランスを取る。」とも言っていた。そのミッキーもいよいよこの夏、日本で受注会を行うという。始まりから完成まで、ケアも含め一貫した手仕事による誂え靴の神髄をぜひ見ていただきたい。

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誂え靴(Bespoke shoes)」カテゴリの記事

コメント

管理人様

お世話になっております。
今回のブログもとても読み応えのある内容ですね!
写真のオペラパンプスはChaggar氏の工房で見せてもらいましたが、とても存在感がありました。たまに既成でみかける物と比べると大分軽くて、一見華奢でしたがその分とてもエレガントでした。
彼の作業する姿をみていると確かに迷いがなく力強く線を引いたり削ったりしたいたのが印象的でした。管理人様のお蔭で貴重な時間な一時を過ごす事ができました。本当にありがとうございます。日本でのオーダー会が成功する事を心から願っております。良い週末をお過ごしください!

青山

青山様

金曜夜(現地では)の憩いのひと時にコメントを有難うございます。

日本に居ながらアムリック氏を紹介する私と、現地で工房を見学された青山様がこうしてブログでやり取りする。時代の移り変わりを思わずにはいられません。

彼の日本での受注会が成功することを私も願っていますが、いま日本は円安ですので(それでも一時期の1£=220円の頃よりは良い方ですが)ビスポークを楽しむ靴好きの方も少し控えていると思います。

そうした点をどう攻略するかはアムリック氏の考えによるかと思いますが私も受注会にはお邪魔させて頂こうと思っています。

今回のことをきっかけに青山様とも色々と情報交換などさせて頂けますと幸いです。

新たな職人さんのご紹介、有難う御座います!今回もとても興味をひかれる記事でした。どうしてこう、ビスポークサンプルは人の物欲を掻き立てるのか…見ると欲しくなってしまうので困ります(笑)

以前、アムリック・シャガー氏の靴について雑誌か何かで見かけた時は、もっと角張った特徴的なサンプルを紹介していたので「前衛的な職人だなぁ」と感じておりましたが、今回の写真を拝見して、印象が一変しました。やはりテリー・ムーア氏の元でラストメイキングを学んだだけあって、フルブローグのサンプル靴のように男らしいしっかりとした靴も作られるのですね。いつか実物も見てみたいものです。

上から見た様子と、斜め横から見た印象が異なるトゥシェイプは、いまはなきN.Tuczecの靴で見られたディティールのようです。同じくロンドンの靴店で腕を振るっていたMarquessの川口氏の靴も同じような特徴があり、興味深いな~と思った次第です。

これはとても貴重な内容の記事ですね、雑誌顔負けの新鮮な情報です。
それ以外のビスポークメーカーの靴よりも、ほんのりと甘いといいますか柔らかい印象を受けるのは気のせいでしょうか、
多分この人はとても物腰の柔らかく気の良い人だと予想(笑)

通過といえば来月以降、ギリシャが飛んで(絶賛攻撃され中です)驚く程の円高になってもポンドは以前高いままでしょうから、当分は英国製の円高買いの恩恵は受けれなさそうですね。

管理人様

今回ご紹介されているアムリック・シャガール氏。以前に靴読本で見かけたことがありますが、集中力抜群の超凝り性職人として紹介されていたのが印象的でした。
作りを見ると英国靴の質実剛健な力強い作りのはずなのに、それをシャープかつコンパクトにまとめているのは流石形の捉え方がうまいシャガール氏と感激いたしました。

この記事の中で管理人様が載せられているサンプルはどれも素敵ですが、個人的には茶/ボルドーのコンビ靴が好みです。
こんな靴を履いて紅葉を楽しみながら散歩ができたらどんなに素晴らしいだろうとひとり妄想したりしております(笑)

シロさん

お休みの朝からコメントを頂戴し、有難うございます。

仰るようにタックゼック(トゥーセック)やクレバリー、フォスターでも見られるつま先とコバの相違ですが、ミッキーの場合はつま先はスマートラウンドに近く(しかもよく見るとチゼル気味)、コバはバリバリのスクェアといった感じがします。

彼は気さくで物腰が柔らかく、とても温和な職人さんです。交友関係についてはあまり話しませんでしたがマーキスの川口さんのこともよく知っているようで、というかメイフェア地区の靴職人は多かれ少なかれ皆お互いを知っている感じです。

勉強熱心、探究心も旺盛で、色々試してみようという好奇心もあるシロさんですので、今回の特集が琴線に触れたのだとしたら嬉しいです。そんなシロさんが今作られている靴がどんな仕上がりになるかとても楽しみになりました。

カメリア様

カメリア様のお見立てどおり、彼はとても物腰の柔らかな人です。靴作りや服作り以外にも人生を楽しむことを知っているのでとても幅広く話が出来ました。

東京でもフィッシュマーケットに行ったり、相撲部屋を訪問したりとおのぼりさんよろしく充実した毎日を過ごしたようです。今までホテルの部屋とショップの往復、たまに少し外出するくらいのトランクショウに携わる名だたるメゾンのスタッフを見てきましたが彼は全然違うタイプだなと思いました。

彼の靴は唯一無二ですので、もし興味がありましたら一度トランクショウをお訪ねになってみてください。彼は探究心旺盛ですので日本の誂え靴のマーケットにいる人間がどんなことを考えているかとても興味があるのだと思います。

スクルージ様

やはり、ボルドーと茶色のコンビ靴に心惹かれましたか。

実は私もこの中で一番履いて面白そうだし履く機会が多いのはどれだろうなと考えたら黒のフルブローグも良いですがやはりコンビそれも秋冬用のツィードルックに最適だろうなと思いました。

彼の靴は彼の集中力が反映されています。とにかく手仕事の連続で全く眠らず一つの部分を完成させることはざらにあるようです。ステッチもアンティーク仕上げもツリー作りも、ここでは載せませんでしたが付属のシューバッグがこれまたテイラーでもある彼独特のシルク生地を使った一点物なのです。

彼は自分の世界観を一度見て欲しいと考えているようです。もし興味がありましたら是非トランクショウを覗いてみてください。

管理人様


同じく、テリームーア氏の下で働き、管理人様が称賛される松田氏にも、勝るとも劣らずといった職人さんでしょうか?

それでいて、フォスターより価格が手頃であれば良いですね。

やまだ様

松田氏が指名される前のテリーの後継、本命はミッキーだったと聞きましたが何かがあって辞めたんだと思います。その辺は本人も口に出して言わないのでよく分かりません。

靴の価格は驚かれるかもしれませんが、むしろフォスターより高価格です。というのもシューツリーにシューバッグ付属品に至るまで手仕事に拘るので人件費がとても高くなるためです。

素晴らしい靴ですね!!氏が履いている青いソックスの柄に非常に興味がわきました。①と⑤が同じ靴だとはびっくりしました。このような広いチゼルトウは見たことがありませんでした。チゼルと言えば日本語に訳すと、ノミの事。私どもの仕事では欠かせない物ですが、以前ファッション雑誌でチゼルトウが紹介されラウンドトウ、スクエアトウ。といろんなトウがあることを知りました。そこで建設機械の展示会で、コンクリートや岩盤を砕く、エアーブレーカーを購入する際にメイカーの御方がブレーカーに装着するノミは先が尖ったタイプか、それとも平べったいたがねタイプどちらになさいますか?
と尋ねられたら時に私はそうですねチゼルはと話したら同席されたデイラーの担当者がさすがに浦野さんは違うノミの事をチゼルと言うのだから!と言えばメイカーの御方もカタログにはチゼルと記載してはいるが初めてチゼルと言う言葉を、お客様から聞きましたと、言われたのを思い出します。今回も全く関係ない話しでした。すみません。

浦野様

お仕事柄工業用のノミを扱うことが多いとのことですが、機械の納入業者さんにチゼルという言葉をお使いになった様子がとても臨場感あふれる文章で綴られていていて楽しませて頂きました。

チゼルという言葉が出て着た時の業者さんの目が点になっていたお顔が目に浮かびます(笑)浦野様らしいウィットにとんだ一瞬だったのではないでしょうか。

自らの技量だけで世界と勝負する職人さんには本当に憧れを抱きます。

僕もなぜかミッキー作ラストの靴、3足あります(爆

住職様

ご無沙汰しています。

何とミッキーの靴をそれも3足オーダーされているとのこと。なんでもトライしてみる住職様の真骨頂が発揮されているとお見受けしました。

彼はいたってマイペースな職人で顧客獲得のために精力的にビジネスをこなすタイプではないところ(実際は凄いスピリットやファイティング魂を持っているのですがそれが前面に出てこないタイプなのでしょうか…)がなんとも魅力的です。

いつか機会がありましたら住職様のミッキー靴を拝見できれば幸いです。

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