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2013年6月 8日 (土)

Bespoke Archive03(Cleverley11~15)

日本で誂え靴が脚光を浴び始めた1990年代、「注文靴は3足目で完成する」といった情報がまことしやか広まったことがある。だが、3足作って完成するかどうかは千差万別、3足作る前に止める人もいれば1足目から満足して注文を重ねる人までそれぞれだった。特に顧客の足の形と木型=靴のシェイプは密接な関係があり、いくらCウィズくらい細身の紐靴が欲しいと思っても足が幅広ならばそれは無理というもの、また同じ木型でも靴が変わればフィット感も変わることなど注文を重ねることで見えてくることがたくさんあった。

色々な靴屋で作って貰うのも良いが、馴染みの靴屋を一軒決めて靴を作り続けるとどんな関係が築けるのか、期待を込めてクレバリーと付き合ううちに、いつの間にか注文靴が10足を超えるようになっていた。この頃になるとクレバリーとの付き合いは単なる注文時の仕様のやり取りや確認だけでなく新たな素材やデザインの提案、注文後の雑談などビスポークの語源Be spokenを体感できるようになった。そこで今回はクレバリーの11足目~15足目を紹介しながら、当時の思い出や変化を記録しておこうと思う。

* Cleverley 11 to 15

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右端の11足目から順に並べて左端が15足目。この頃はビジネス用の靴を注文しなくなっていたことが見ただけで分かるだろう。特に14足目で初のアリゲータ・エラスティックサイドをオーダーしてからは時々別の注文を入れつつもエキゾチックレザーの靴を絶えず注文し続けていた。合計10足のアリゲータ靴が揃うまで足かけ7年近くのこの流れは続いていくことになる。またチゼルトゥも11足目のコンビ靴で終了し以後はアンソニークレバリートゥに変わるなど注文に対するスタンスが大きく変化していった時期だ。

11-01 Spectator full brogue

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本来は記念すべき10足目のはずだったコンビ靴。コンビと黒のフルブローグを同時注文した際、黒の方が台帳上先だったため、コンビ靴が11足目に追いやられた経緯がある。着る服を選ぶこのコンビ靴、麻か綿のスーツと一緒にと思っていたが新調する機会が中々来ない。本格的デビュー未達成のままだが、この夏こそコットンパンツに合わせてどんどん履こうと思う。この靴の特徴は何と言っても白い部分がホワイトバックスということに加え出し縫いも白糸とコンビを際立たせる作りになっていることだ。

11-02 Spectator inside & mirror finished monogram

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チゼルトゥ最後の注文となったスペクテイターシューズ。アーチ部分は綺麗に成形され、出し縫いの針を入れた跡がホワイトバックス部分でくっきりと見える。ヒールカウンター外側にはジョージ発案のスクリプトのイニシャルを入れたが、左右対称になるよう右側は裏返した状態で穴開けされている。クレバリー側ではミラー仕上げと呼んでいたと思うが、こんな調子でクレバリー側からの提案が増え、注文靴に色々な個性が加わって毎回どんな靴になるか楽しみが増えていった。

12-01Russian Reindeer semi brogue.

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最初で最後の(恐らく)ロシアンレインディアを使った1足。名本「ハンドメイドシューズ」の中のクレマン作「ロシアンレインディア素材のセミブローグ」を基にオーダーを入れた。当時対応したポール・ディヴィスから「革が裂けにくいラウンドトゥが良いのでは」とのサジェスチョンがありラウンドトゥをリクエスト。良質のレインディアが僅かしかないとのことで急遽注文したが、ライニングもレインディアを使って仕上げてきたのには驚いた。今見ると左右の革の色が違ってはいるがショートノーズでラウンドの靴も独特の魅力がある。

12-02 Inside arch & displacement heel seem

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裂け易い素材ということでラウンドにしたのならばと、ヒール部分のシームもインサイド側に寄せて仕上げるよう依頼した。おかげで真後ろから見ると一見シームレスヒールのようで中々良いものだ。アーチ部分も皺がなく仕上がりは初期の頃から比べるとぐっと良くなっている。素材はダイヤ柄がくっきり浮き出ている上質なもので、最近はもう少し色が濃くダイヤ柄のはっきりしないものが多いような気がする。つま先のデザインはラウンドトゥに合う新しいものを採用してみた。

13-01 Immtation full brogue with Abthony Cleverley toe

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13足目のイミテーションフルブローグ。ラウンドトゥから元のチゼルトゥではなく新たなアンソニークレバリートゥに変更するという難題を消化しきれなかった1足。出来上がりも丸くショートノーズの12足目から低くロングなスクェアトゥのアンソニークレバリーへの移行期と思える中途半端にバルキーでのっぺりとした靴に仕上がっている。当時担当していたポール・ディヴィスの独立があってクレバリー側の混乱もあったのだろう。それを挽回するように14足目のアリゲータ・エラスティックサイドでは気合の入った靴を完成させてくる。

13-02 Inside appearance & new design on toe

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横から見たシルエットはレースステイ下が盛り上がっていてつま先からアイレット最上部までが殆ど一直線に近い。アーチ前部に再び皺が入るなど作りに関して言えば以前のランクに戻ってしまったようだ。何よりラストの形状がイメージとだいぶかけ離れている。アンティーク仕上げは使われているポリッシュが落ち易いため、新たにキィウィのパレードグロスで磨きこんでいった。特につま先を念入りにポリっシングすることで飴色の何とも言えない色が出てくる。

14-01 Alligator elastic side shoe

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14足目で初めてオーダーしたアリゲータ素材のサイドエラスティック。ミシシッピー産の養殖ワニをイタリアで鞣したアリゲータスキンという由緒正しき素材だ。ただ当時は今よりも色のバラエティが少なく、4~5色しかない見本の中から最も明るい色目のアリゲータを選んだ。つま先がプレーンな方が良いとのことでスリッポンタイプのサイドエラスティックを注文、更に手縫い靴の雰囲気が伝わるようにと出し縫いのステッチを生成り色に指定した。お蔭で随分存在感のある1足となっている。

14-02 Inside shoe appearance & lining

04s

サイドエラスティックを内側から見るとギンピングを施したパーフォレーションラインがインステップのかなり上を跨いでいることが分かる。こうしたパターン取りの変更で前から見たときにロングノーズに見えるようだ。一方、ライニングは初めてグリーンを指定。尤もグラスゴーが「グリーンはどうだ?」と聞くので「OKそうしよう!」となっただけのことだが…。この靴をそもそもオーダーしようと思った理由もグラスゴーが「アリゲータの靴はどうだ?」と聞いてきたことがきっかけで、旧知の仲になると色々と面白いことが起こる。

15-01 Alligator Lazy-man elastic side shoe

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以前も述べたが黒のアリゲータサイドエラスティックはジョン・カネーラの最後の来日時にオーダーしたものだ。Vトップの履き口やシューレース下の内羽根ラインを模したステッチはカネーラのサジェスチョン。あの時を最後に会うこともなくなったが今も元気でリタイア生活を満喫しているのだろうか。基本的には前作の14足目と同じシルエットでつま先の形状も含め変更したところはない。

15-02 Inside shoe appearance & lining

05s

14足目と15足目のサイドエラスティックはともにアーチ前部の上に皺が入っている。恐らくはインサイドアーチ部分に入れる芯の関係なのだろう。その後更に数足作る頃にはこの皺問題も解決してゆく。ここでは黒靴ということで再び赤のライニングを指定している。余談だがアリゲータ素材の手入れは乳化性のウェストン純正「レプタイルクリーム」を塗って乾拭きするのみだが、今のところはそれで十分美しさを保っている。

11足目から15足目にかけては今まで注文していなかったコンビの靴やロシアンレインディアなど希少な革素材、更には贅沢なアリゲータなど日々の仕事用からお洒落用の靴にオーダーが変わっていったことが分かるラインナップになっている。13足目で課題が出たものの、全体としてはさらにシェイプアップされたスクエァトゥの靴が出来上がるようになってきている。この後は時々スェード素材やコンビネーションのブーツに走ることがあったにせよ続けてアリゲータの靴の注文が続く。

リッチなアリゲータ素材を注文し続けたり手間のかかるノルウェジアンウェルトのブーツを急にオーダーしたりと自由にできたのはクレバリーの代表グラスゴーとの親密な関係があればこそ。馴染みの靴屋をもつことで得られるものは沢山あった。最近は年1回がグラスゴー、残りがレッパネンと顔ぶれも変わってきている。グラスゴーがジュニアに経営を任せるのも遠くはないはず。こちらも既に27足目を注文し、節目の30足を迎えんとしている。その先は息子を次代の顧客に繋げ、店側と顧客それぞれ二代にわたって良好な関係を築けたらと密かに思っている。

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コメント

管理人様

14,15のアリゲータサイドエラスティックはとても完成度が高いですね。とても上品で、抜群の存在感ですね。
レインディアとはトナカイのことですよね。とても希少ですね。
あらためて管理人様の誂え靴のラインナップに圧倒されました。

今日、私はリネン/ヌバックの米国製コールハーンのサドルシューズを購入しました。色はナチュラルです。ブリックソールなので麻の靴のわりにはカジュアルに履けそうです。サイズがあれば管理人様にも是非おすすめしたいと思いました。

PMT様

早速のコメントをありがとうございました。

米国製コール・ハーンのサドルシューズはやはり昔のデッドストック物だったのでしょうか?流石はPMT様、逸品を探されるのがとても上手だと改めて感心いたしました。

誂えた靴はどれも拘って注文したものばかりですので、出来が今ひとつでも思い入れがあります(笑)。何より足下はおしゃれの要と言いますので、誂え・既成に関わらず自分なりの拘りをもってこれからも靴を選びたいと思っています。

ところでPMT様は普段どのくらいのサイズの靴を履かれていらっしゃるのでしょうか?

管理人様

ご返信有難うございます。

コール・ハーンは90年代初め頃の物なのでデッドストックと言えるかどうか分かりませんが、それでも新品の状態で20年は経っているので、嬉しい巡り合わせという他ありません。

私は普段、米国製は8Dを、英国製は7.5Eか7Fを履いています。若い頃はジャストフィットに拘り過ぎて、夕方になるとよく足が痺れていました(笑)

十代の頃から服や靴の事ばかり考えて生活してきましたが、最近また服飾の難しさを感じています。
ワードローブがトラディショナルで良質な服や靴で揃った状態になり、心穏やかになることを目標としてきましたが、なかなかその境地に達することが出来ません。


PMT様

20年経っている新品を見つけられることも最近は難しいのではないでしょうか。正に巡り合わせとはいえそれを惹きつけるPMT様の経験ならではだと思います。

ジャストフィットで夕方になるときつく感じる経験をされたとのこと。私も昔は店員に勧められるままタイトな靴を買ってその後難儀したこともありますが、結局最後にはその靴も馴染んでくれたので良しとしています(笑)。

お洒落とは見る人がいて初めて成り立つものですから多少の緊張はつきもの。反対に心穏やかになるとしたらその時はお洒落の一線を退いた時かもしれませんね。

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