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2013年1月26日 (土)

直しの名店(続編)

アンチエイジングという言葉をご存じだろうか。シンプルな生活習慣を心がけることで人生を豊かに長く送ることができるらしい。特に①毎晩7~8時間の睡眠②間食はしない③毎日朝食を摂取④体重が下は標準から5%を割らず上は20%を超えない⑤規則的な運動をする⑥飲酒はほどほど⑦喫煙をしないの七つがポイントのようで、これを3~4つしか守らない人と殆ど守る人では平均寿命が11年違うという結果も出ているとのこと。メディカルチェックを参考にしたトレーニングを進めることでもだいぶ改善するようだ。

もともとアンチエイジングという言葉を知るより前からトレーニングに励んできたが、振り返ってみると上記7つの条件を割合守っていたと思う。中には「飲酒はほどほど」という中々難しいものもあるが、アンチエイジングに根差した生活を送ることで人生が豊かになる上、愛着のある服を恰好良く着られるのならば実に幸せというもの。元に戻りはしないが、歯車をできるだけゆっくり回しながら年月を重ねたいと考えている。そこで今回は前回の続編、直しに出したヘンリープールのスーツを紹介しながら体型についても考えてみたい。

1.スーツの変化

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左側は当ブログで最初に紹介した時の写真。ヘンリープルの3着目で今から4年前(2009年3月30日付)の記事だ。そして右側が直しに出した後のもの。肩幅も含めこのスーツもかなり大胆な直しが入っている。具体的には、ジャケットでは肩幅の詰めと袖筒の詰めに今回はウェスト部分の詰めも加わった。次にウィストコートは両脇からの詰め、更にトラウザーズがウェスト部分にワタリ幅から裾幅まで全体的に詰めが入るなど修正個所はとても多い。それでも仕上がり後の雰囲気はヘンリープールのまま、着心地は良くなっているのだから流石と言えよう。

2.ショルダーライン

B

写真上が昔のショルダーライン、写真下が直し後のショルダーラインだ。厚めの肩パッドが入って袖山が盛り上がっていた当初の肩先と比べると、肩幅を削って詰める際、パッドも一緒に削り、ロープドショルダーからナチュラルショルダー調に変わったのがよく分かると思う。写真では見えないが袖筒を詰めたことで横から見た肩周辺がとてもすっきりしてくる。体重変化の影響を比較的受けにくい肩幅だが、アンチエイジングを目指したトレーニングによって、肩につく三角筋が締まったのかもしれない。

3.トラウザーズのシルエット

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今回も英国らしいフォワードの2プリーツはそのままにウェスト~ヒップ、ワタリ幅~裾幅までほぼ全体的に詰めている。裾幅はトラッドの適正値22㎝になっている。ランニングを継続することで大腿筋後部から臀部にかけて締まってくるのでワタリ幅の詰めは必須となる。ところでこの3ピースに限ってウェストバンドにブレイシーズボタンが付くのでサスペンダー(米国製なので敢えてそう呼ぶ)を装着した状態で撮影してみた。青と茶のストライプが入ったカジュアルな1本はブルックスブラザーズネーム。何度も書くが、英国調のブレイシーズよりも米国調のサスペンダーの方が個人的には好みだ。

4.ウェイストコート

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両脇からバランスを見ながら詰めていったウェイストコート。アジャスターで締める量が多すぎないようボタンを留めた状態で既にかなりフィットしている。前から脇の腹部は比較的早い段階で落ちていくのだが、後腹(背筋側)を落とすのは中々難しい。そこを上手く包むように後身頃の長さを調節してくれたようだ。ロンドンのテイラーに聞くと「どちらでもよい」と答えるウェイストコート一番下の釦だが、プールの場合は写真でわかるように釦穴が外側にずれているので留められない作りになっている。同じロンドンでもやはりハウススタイルがあるようだ。

5.Vゾーン

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今回のシャツは英国製ロイヤルオックスの生地を使ったタンブル&アッサーのフレンチカフ。セミワイドの襟型に裏地(写真でウェイストコートの背中に見える青い部分がライニング)の青を拾ったポールスチュアートのストライプタイを締めている。デイヴィス&サンのラペルドウェイストコートに比べるとラペルがやや幅広になっている。首周りのしつけや釦穴かがりなど全て手縫い。当たり前だが既成のウェイストコートとはフィット感が違う。

6.スーツスタイル

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ジャケットを中心とした写真。左が直し前で、右が直し後だ。今回はジャケットのウェストラインを当初よりかなり詰めている。もちろんウェスト部分だけでなくアームホール下から裾までウェストが一番きつくなるよう両脇に加えバックシームも含めた所謂3方詰めである。角度は違うがいかに全体をスリムフィットに仕上げながら英国調の持つドレープ感を生かした仕上げに拘っているかが見て取れる。前合わせが浅めになることで結果的にVゾーンが深くなり、以前よりもウェイストコートの見える分量が増えている。

7.イングリッシュドレープ

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肩から胸にかけての流れるライン。ウェストの窪みが袖と身頃の隙間から綺麗に見えて英国製スーツらしさがよく表れている。ゆとりのあるチェストからウェストにかけて曲線を描き、ぐっと絞られたウェストまで綺麗に落ちる生地。イングリッシュドレープと呼ばれる複雑な曲線が織りなすこの部分こそスーツの顔という人もいる。ポケットチーフは差し色にピンクのタッタ-ソールをTVフォールドでイン。ダンヒルのもので英国つながりを意識してのこと。体にフィットしたスーツはある程度体型を維持できてこそ長く着られる。トレーニングは怠らないようにしたい。

8.ハンマーヘッドダーツ

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ラペル裏に走るハ刺しの跡に加えT字型のダーツが走っている。これがハンマーヘッドダーツと呼ばれるもの。胸のラインの立体感を高めるための伝統的なディテールだそうだ。他のテイラーでは見たことがないが、既成では最も手の込んだスーツを作るイタリアのブリオーニが用いる技法とのこと。今回直しに出した際にウェスト部分を絞っているので、このハンマーヘッドダーツとの相乗効果で上の写真7のような強いイングリッシュドレープが生まれるのかもしれない。

9.ボタンホール

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下2つが本開き、上2つが開き見せのボタンホール。全て手縫い仕上げで、綺麗に4つ揃っているが、下2つだけメスで切って穴を開けている。前回も書いたがヘンリープールのボタンは小ぶりな2つ穴が特徴、袖のボタンもやはり小さい。余談だがダブルカフのシャツを着るとき最も重宝するカフリンクスは写真のようなゴム製のノット。何しろ付けたままシャツを着ることができるからだ。これが金属のチェーンだと上手くいかない。ノットは靴の茶色に合わせて茶の入ったノットを選んでいる。

10.靴のコーディネイト

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ミディアムグレーのスーツにコーヒーブラウンのレースアップ(右)、この組み合わせはポールスチュアートのカタログによく出てくるが、中々素敵な合わせだと思う。英国製のスーツと思うとついつい黒靴を合わせたくなるが、ポールスチュアートに言わせると「退屈な色合わせ」になる。となればもう1足(左)も黒ではなく茶のバックスキンを合わせたい。英国のスーツを着るアメリカ人を思い浮かべて着こなしを組み立てると、他にもバーガンディなど、いつもと違った組み合わせが思いつく。

11.イングリッシュオックスフォード

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左はジョージ・クレバリーのセミブローグ・アデレイド、右はフォスター&サンのシームレス・セミブローグ。靴の好みも時代とともに変わるようで、昔はブローグばかり注文していた時があった。紐靴ならばフィッティングを紐で細かく調節できると思ったからだ。ところが実際はそうでもなく、寧ろスリッポンシューズの方が足のむくみにしっかり付いてくる。そんなこともあって、最近はスリッポンばかり注文している。ただし紐靴はドレススタイルの中心、いざという時のためにある程度の足数とバリエーションを揃えておくことは必要だろう。

今回の直しは前回よりもジャケットのウェスト詰めが加わった分工賃がアップした。ただしプールに頼めば更にアップするだろう。加えて英国からプールの担当者が来日するのに合わせてホテルオークラまで出向き、試着して直しを依頼するのも大変だ。きっと「折角ですので今の体型に合わせてもう1着スーツを新調されては?」となるに違いない。運よく直しだけで済んだとしても、預かり期間はそれなりだろう。それに郵送で受け取る手間暇など懸案もある。一方サルトではシーズンオフだったので直しの期間は多めの3か月だったが仕上がりは素晴らしくフィット感も含め満足のいく仕事ぶりだった。

アンチエイジングを意識するようになって生活全般が少しずつ変わってきた。定期的にメディカルチェックを行い、トレーニングを中心にシンプルなライフスタイルを実践することで価値観の変化も起きているようだ。長らく続いた誂えの世界を楽しむのもそろそろ終わりが近づいてきているのを感じる。もちろん「今後決して物は買わない、注文しない」と頑なになっている訳ではない。だが、この先は職人が丹精込めて仕上げた逸品を愛用し、時に直しを入れながら長きにわたって価値ある使い方をしていきたいと考えている。

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コメント

管理人様

かなりすっきりした印象になりましたね。
4.の写真を見ると、二本目のプリーツをダーツにすると腰回りがすっきりして、よりウェイストコートにマッチするのではないかと思いました。ご参考までに。

服飾の業界もスイスの時計産業と同じような事がおきているのですね。そのことで以前より良くなったウォッチメイカーもありますし、消滅を免れたところもあります。
経営形態が変わっても、服飾メイカーやシューメイカーも伝統的な名品を作り続けて貰いたいと願います。

PMT様

なるほど外側のプリーツをダーツにする、是非今度チャレンジしてみます。

ブリオーニやアルニス、パリのベルルッティやローマのガット、確かに何れも単独では生き抜いていくのが難しいのかもしれません。というよりもベルルッティなどは随分前から既にLVMHの傘下でしたし。

正直、「ベルルッティの靴でさえ割合早く飽きてしまったのに、その上歴史のないアパレルなどに興味が湧くわけはなさそうだな…」などど書くと語弊がありそうですが、それに近い感覚です。

やはり管理人様。スクエアトウがお好きなんですね?
今日、行きつけの建設機械のM商店の、御子息が大の靴好き!!旧、日本製靴。今RCオリジナルのブラウン、オンブラウンのサドルシューズを差し上げました。たまに履いてる?と尋ねるともちろん最高にドレスアップした時にしか履きませんと嬉しい言葉。その後シューストリングスの通しを尋ねました。もちろんバルモラルはストレイート。ブルッチャーはオーバーラップ(元々は軍靴だから)と話しますと私もそう思いますと答えてくれました。この御子息は今、メジャーリーグ、テキサスレンジャーズ。昔は北海道日本日本ハムの剛速球投手のDにそっくりですよ。

管理人様、はじめまして。
最近、このブログを読ませていただいております。

管理人様の素晴らしい着こなしなど参考にしたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。

東京には良い直しの店があっていいですね。
東北では、なかなか見つかりません。
靴ならRESHが仙台にあるのですが。

浦野様

早速のコメントを有難うございます。

スクェアトゥの方が誂えっぽくてビスポークが好きになって暫くはスクェアトゥが中心でした。ただ一番最初にオーダーしたビスポーク(ジョンロブ・パリ)はラウンドトゥでしたし、今仕掛け中の靴は2足ともラウンドトゥです。

これからラウンドで何足かオーダーしようかと思っていますが、そろそろ履く方に力を入れて行かないと100歳くらいまで現役でバリバリ歩かなくてはならなくなりそうなので自重しようと考えています。

えんはく様

この度は当ブログにお越しいただき、またコメントを頂戴しましたこと誠に有難う御座います。これからも機会がありましたら是非お立ち寄りください。

さて、直しの名店が東京には多いとのご意見、確かに地方に行きますと中々お気に入りの直し店を見つけるのも大変かと思います。

もっとも昔ハケットが日本上陸を果たした頃から本切羽の本開きというのが流行り始めましたが、当時はそんな直しをできる店もなく、街のテイラーにもって行っても開き見せオンリーで手掛かりの釦穴も含めてやったことさえない職人さんが殆どでした。

その頃を思うと地方でも上手な直しの店が現われるのはそう遠くないような気もします。既に仙台に靴のRESHさんがあるということは今後に期待できるのではないでしょうか。

管理人様

ネットで直しの店を探しましたところ、仙台にあるお店を見つけましたので、今度持ち込んでみようかと思っています。
ありがとうございました。

それから管理人様に質問なのですが、スーツやコートなどをクリーニングに出される場合、注意されてることは何でしょうか?また、どのようなお店に出されてますか?
教えていただければ、幸いです。

えんはく様

仙台にも直しの名店が既にあるかもしれませんね。持ち込まれましたら結果をお教え頂けますと幸いです。

良いスーツやコートはクリーニングに出さないのがポイントですが、そういってもあシジミ等を考えると時々はやむを得ないかと思います。

私は今まで伊勢丹新宿に受付窓口を開いている「ウォータークリーニング」に専らお願いしています。有機溶剤のパークロロエチレンはウール繊維をあっという間に傷めてしまいます。

その点ウォータークリーニングならば水の力で汚れを落とすので多少は生地が縮みますが仕上がりの軽さ、ナチュラル感、匂いのなさ、そして熟練した職人によるプレスを通じた仕上がりの素晴らしさ、いずれも特筆ものです。

高価だったり、誂えだったり、思い入れがあったり。大切な衣料は人それぞれですが、私としては「この1着は…」と思うものはぜひウォータークリーニングをを薦めします。

管理人様、ありがとうございました。

「ウォータークリーニング」のHPを拝見しましたが、高い技術と自信を持っているお店のようですね。しかも、宅配サービスも行ってるようなので、一度お願いしようかと思いました。

えんはく様

大切な衣料でしたら、ぜひ一度お試しになられては如何でしょうか。仕上がりの感触は納品時よりも爽やかかもしれません。

こんにちは、
銀座サルトは流石ですね。
私もチェスターバリー製のパンツ等直したい物が有るのですが、どこで直せば良いものかと困っていたところでした。管理人様を見習い、サルトにうかがってみようかと思います。
あと、管理人様のスーツはいつも新品かのように良く手入れをされているといつも感心しているのですが、日常どのような手入れをしているのでしょうか?

れの様

サルトは接客の対応も素晴らしいですし、向こうからより良い直しの提案をきちんとしてくれるところが気に入っています。

ご質問にありました撮影時のスーツですが、日頃から特に難しい手入れはしておらず、ブラッシングを行うだけです。強いて言えば撮影前にスチームを当てて生地に潤いを与えるくらいでしょうか。

後は「そろそろクリーニングかな?」と思ったスーツ等を少しずつウォータークリーニングに出す程度ですので、ゲストの皆様と特に変わったことはないかと思います。

管理人様


話が変わって申し訳ありません。

ヘンリープールのサイトを見ていると、4月に日本でトランクショーを実施するようですね。
日本で頼むのとイギリスで頼むのと、値段が変わったりするものなのでしょうか?
あと、生地などにもよると思いますが、コートを仕立てるには、どのぐらいの予算で考えておけばよろしいでしょうか?(質問ばかりですみません)

やまだ様

ヘンリープールは現地価格です。仮縫い・中縫い・納品の流れですが、受取は現地か郵送になります。日本へのキャリーはありません。

価格は現在3ピースで恐らく4000£以上、コートだと5000£くらいでしょうか。今度調べてみます。

脇から済みません。
ヘンリープールは3ピースで£3000くらいだと思いますよ。と言いますか、日本でトランクショー受付をしているチクマの方からそのように紹介されたのですが。私はデポジットは£1250を取られたので、さすがに£4000まではしないかと。生地が特別な物でなければ、また、値上げしていなければの話ですが。国内情勢としては良いことなのですが、絶好のタイミングで円安にふれているので、私の支払いがどんどん上がっていってます(笑)
もう少し円安になったら、インポート製品などから国内製品にシフトしようと思います。

管理人様、れの様


コメント有難うございます。
日本で頼んでも、本国で頼むのと値段は同じということですね。(コートは、£4000~で頼めますかね?)

確かに、外貨で買う場合は、今が最後のチャンスかも知れないですね。(円安もどこまで続くか分かりませんが)

輸出製品を取り扱っている会社にいる立場からすると、
円安は滅茶苦茶有難いですが、服好きなので、個人的には。。。
(もしくは、オーダーできる機会がまだ先になりそうなら、今のうちに外貨両替するなどしておくとか)

れの様

そうでしたか、プールの値段が3000£ならばお買い得だと思います。デイヴィス&サンでスーパー140’sの生地で3ピースを作ったところ3950£でしたので、プールもそれくらいなのかなと思っておりました。

私もそろそろ買い物は終わりにして手持ちの服で楽しもうと思っているのですが、たまに掘り出し物を買うくらいならば自分にOKを出しています。ストレスの発散にもつながるかと思うので…。

やまだ様

円安といっても、前自民党政権の頃の水準に戻った程度なのかなとは思っています。その頃も、確か今と同じように海外にオーダーを掛けていた記憶があるのですが、どうも超円高に慣らされてしまっていました、いつの間にか…。

いずれにしても、国内のビスポークメイカーも本国並みの強気の値段を設定しているところもあって、今後円安が進み顧客が国内にシフトした場合、注目されるのは割安感のある価格を設定しているメイカーなりテイラーになるのかなと思っています。

テイラーは思いつきませんが、シューメイカーならo.eでしょうか。今度一度訪問しようと思っています。

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