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2012年11月 3日 (土)

Mock-up(モックアップ)

モックアップとは 試作や展示用に作られる原寸大の「模型」のことで、実物と同じように似せて作られたものを指す。ロンドンの誂え靴屋ではかってモックアップを作ってから本番の靴を作り、顧客の満足に応えていたようだ。ジョンロブ・パリでは今もトライアルシューズという呼び方で同様のサービスを行っている。エクストラチャージ有りだが、新しく木型を作る際に仮縫い専用の革でプレーントゥを作り、何箇所かカットしながらフィッティングの様子を見るという。残念なことにロンドンでは随分前にモックアップを作る方法は途絶えてしまっていると聞く。

ところが今回フォスター&サンでは木型の改良と新たなデザインのブーツ作りという課題に対してモックアップを復活させた。しかもジョンロブ・パリのトライアルシューズと違ってフィッティングのみならずデザインやパターンも重要であることから、革質こそセカンドランクながら単なるプレーントゥではなく本番と似たデザインの仮縫い靴を用意してきたのだ。そこで今回は昔のやり方を重んずるフォスター&サンならではのモックアップを使ったフィッティングの様子を伝えようと思う。

1.モックアップの全景

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注文したのはエプロンダービーをロングブーツにして履き口をダブルストラップにしたもの。軍靴をモデルにしたが現在ドーバーのようなライトアングル・モカステッチを上手く縫える職人がいないとのこと。そこで写真のようにU字の部分を摘み縫いして高く盛り上げ、頂上部に切り込みを入れて鋭角に仕上げた「レイク(Raised lakes)という技法はどうか。」という提案があった。今まで注文したことのないデザインも中々魅力的である。早速提案どおりの靴作りを改めて依頼してみた。

2.ブーツのつま先部分

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つま先部分の切り返し。U字部分を作るレイクという技法は囲まれた部分が湖のように見えることからLakeとついたのだろうか。それに岸辺部分にあたる摘み縫いの部分が確かに持ち上がって(raised)まるで岸辺のようにも見える。1作目のパンチドキャップトゥよりポインティになったつま先にシャープなレイクのラインがマッチしてモックアップとはいえないほどの出来栄えだ。革質は本番用とはかなり違うがデザインが本番に近いので全体のイメージを把握できる。

3.ブーツのインサイド

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余った周辺部の革を使って作ったモックアップということで、レースステイからアーチ部分に切り返しが走っているが実際は点線のように切り返しが入るようになる。以前フォスターで作ったカントリーシューズのブーツバージョンといった方がよいだろうか。本番の革はカールフロイデンベルグのスムースレザーをと思っていたがカントリーサイドで履くならば「傷がついても目立ちにくいグレインレザーの方がよいのでは。」というアドヴァイスもありやや柔らかめのスコッチグレインを選択した。

4.ブーツのアウトサイド

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靴の外側も内側同様点線の部分で切り返しが入る。履き口後ろにタブを付けようか職人と相談したところ「タブの部分を縫い合わせるとどうしてもその部分が硬くなって足へのあたりが悪くなるのと、今回のブーツはかなりロングなので履く時はウェスタンブーツのように両脇を持って履くようになる。」ということだった。こうしてディテールを一つ一つ話し合いながらデザインを決めるプロセスもビスポークの醍醐味。しかも職人が日本人ということで細かなニュアンスも伝えられる。理想のオーダー環境といえよう。

5.ブーツのインソール

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本番同様の履き心地を味わわせるためにハンドソーンで仕上げたインソール。実際はボトミングを2列のノルウェジアンステッチが360度取り囲み、出し縫いのステッチがその外側を走る。縫い糸は生成色を指定し、ついでにレイク部分の縫い糸も同じ生成色で仕上げるよう依頼、ソールはスクェアウェイストのハーフミッドソール(ドーバーのスペードソールと同じもの)をリクエストしている。

6.ストラップ部分

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穴が一つだけ開けられたストラップ。実際は両端にもう一つずつ穴を開けて3つ穴のストラップに仕上がる予定。職人がボールペンで穴の位置を書き込んでいるのが写真からも分かるだろうか。ちょうど履き口が脹脛に当たるが、さすがに採寸を念入りに行って作っただけのことはある。見事に一つ穴の状態でストラップを留めることができた。ここもスタッズにするかバックルにするか煮詰めた部分、やはりバックルの方がストラップの端の収まりがよさそうだ。

7.レースステイとストラップ周辺

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レースステイは8アイレット。その上にダブルのストラップがあるので約10インチ丈のブーツが完成する予定だ。アイレットは鳩目にするかどうか迷ったが、つま先がエレガントなスマートラウンドなので小穴のままにしておいた。またアイレット上にストラップがあるため直ぐに脱ぎ履きできないことからフックなしを選択した。デザイン上参考になるものがないところからブーツ作りを始めるには細かな部分のディテールを一つ一つ確認することが大切で、そんな時にはやはりモックアップがあるとイメージを掴みやすい。

8.ブーツのフィッティング(その1)

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モックアップ用の革はかなり薄く柔らかいもので、いくらセカンドランクの革とはいえ正直なところ頼りない。当然履いた時の足へのあたりもソフトで、これで正確なフィッティング感が得られるのだろうかと多少気になった。しかし、そこはよく考えたもので敢えてソフトな革で作った方がフィッティングの甘い部分に不自然な皺が出てくるようだ。写真をよく見ると外側の踵下、大きく皺が寄った部分をボールペンでマーキングしているのが分かる。これが肉厚で本番用の革ではそう上手くはいかないし、何より修正が効かないだろう。

9.ブーツのフィッティング(その2)

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ブーツを履いてシューレースをしっかり結び、ヒールに当たる木板に両足の踵を乗せた状態。職人が右足外側の踝付近に寄った皺を丹念に手でチェックしている。こうしてフィッティングの甘い部分を一つ一つ丹念にチェックしながらモックアップの靴に直接書き込み、パターンに反映させていくのだろう。今回は薄手の靴下を履いていったので靴下をなるべく上まで伸ばした状態で足の収まり具合を見たが、できることならば秋冬用の靴下でフィッティングをした方がより正確なデータが得られる。

10. 納期について

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今回のモックアップによるフィッティングまで約半年かかっている。この後本番用の靴を木型に釣り込んで正式な仮縫い靴が完成するまでもう半年、早ければ来年の5月頃にはトランクショウでフィッティングを迎えることになる。更にもう半年かけてその年の秋には待望のブーツが完成するはず。モックアップの場合注文から完成まで1年半かかるということになるが、その分満足のいく1足が出来上がるに違いない。

モックアップを使って木型のフィッティングやパターンの出来栄えを確認した今回の受注会はとても楽しい体験だった。フォスター&サンに靴を注文してちょうど12足目になるが、その間テリームーアはもちろんのこと今の担当も含めフォスターはいつも最良の方法で靴作りを進めてくれる。そんな靴屋は中々あるものではない。その結果出来上がる靴のクオリティが高いのはある意味当たり前のことなのかもしれない。

近いうちにロンドンを訪れようと思っていたが、ブーツの完成に合わせるとなると来年の秋以降、あるいは再来年になるかもしれない。既に十分な靴があるので出来上がりが待てないということはないが、それでも初めてのブーツという楽しみに加え、これだけ手間をかけて作ってくれる靴のクオリティを早く確かめたいという気持ちがいつになく強い。ジャーミンの本店も改装後は一度も訪れていない。一度直接出向いて感謝の気持ちを伝え、靴を受け取りたいと思っている。

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コメント

管理人様

出来上がりが待ち遠しいですね。管理人様の数多くの靴の中でもフォスター&サンが最もオーラを放ってる気がします。今回のブーツも実物の革で仕上がると一際大きなオーラを放つと思われます。
私は一昨日、51歳にして初めてChurch'sを買いました。黒のキャップトゥです。買う前に色々調べたり、お店を回ったりしたのですが、プラダ傘下以前は旧チャーチ、さらに以前は旧旧チャーチ等と呼んでいるそうで、これではアメリカンヴィンテージと全く同じ世界だなと思い、ちょっとうんざりしました。結局、最新の型にしたのですが、ほど良い形と何よりジャストフィットだったので、とても満足しています。もう一人の姪の結婚式まで履く機会が無いかもしれませんが。

PMT様

確かにクレバリーは大雑把な作りですが履き心地は流石に良いです。フォスター緻密な作りですがどちらかというとカジュアル(ローファー)はあまり得意ではないようです。

今度のブーツが手元に届くまで1年以上かかるので、その間は真っ先に報告させて頂きますj。

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