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2012年9月 8日 (土)

Not Loafer but Casual

今年の夏のバカンスは当初ロンドン・インを考えていたが、オリンピックが近くなるとホテルの予約や入国審査の混雑など気になる情報が出てきたので、5月の連休明けには旅行先をイタリアとフランスに変えてしまった。お蔭で久しぶりのロンドン散策はお預けになったが、ゆったりとした旅を満喫できたのだから変更は正解だったといえよう。それにしても30年前の欧州旅行時は鉄道パスを使って列車で周遊、その日の宿を現地のツーリストインフォメーションで手配する旅だったが、オンラインが発達した今は全て事前に手配できる。情報化の到来が旅を楽で快適なものに変えたことを改めて実感した。

ロンドンで受け取る予定だったフォスターの最新靴もロンドン行きがなくなったため、はじめはどうしたものかと考えていた。ところが宅急便でローマの知人宅に送り、受け取った後出国地パリの空港で免税手続きを行えばよいことに気づき実行したらこちらも全て順調。ともかく便利な世の中になったものだ。昔パリでデタックスの申請をしたところ、後日フランスフランのチェックが送られてきて驚いたことがあったが、当時とは隔世の感がある。そこで、今回はジャーミンStに立ち寄ることなく持ち帰ったフォスター&サンのカジュアル(ローファーとは呼ばない)を紹介したい。

1.ノルウェジアン・カジュアル

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ローファーはアメリカ人がつけた呼称。英語の国ロンドンでは米語ではなく、英国流にカジュアルと呼ぶ。フォスター最新のカジュアルは中々グラマラスでボリュームがある。注文した時に参考にしたのはジョンロブ既成の”アシュレイ”だったが、完成した靴は足全体を包むようなしっかりとした印象だ。履き口とエプロンの付け根から覆い被さるように左右に伸びるサドルは足の甲を適度に締め付け支える役を担っているのだろう。カジュアルといえどもタイドアップしたジャケットスタイルこそ相応しい靴と言える。

2.ロングヴァンプ

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80年代に人気だったコール・ハーンのペニーローファーに代表されるように元来アメリカのローファーはショートヴァンプ気味でそれこそカジュアルな雰囲気が強いが、イギリスのカジュアルはヴァンプが長くドレッシーな服装によく合う。もとのサンプルはヴァンプ部分がロールステッチだったが、オーダー時にピックステッチとつま先のスキンステッチをお願いした。フォスターに限らずサンプルとはどこか違う靴を常にお願いしているが、そんな我儘に応えてフォスターは今回も素晴らしい靴を仕上げてきたようだ。

3.エプロン部分

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エプロン部分は通常エプロン側からスキンステッチを行うところだが、ここでは反対側から縫っている。以前オーダーしたノルウェジアン・ダービー と同じで、確かナンバー1のクローザーによるものだったはず。残念ながら最近引退されたとの話を聞き、ドーヴァーのような靴をオーダーするのも難しいと一時期は聞いていた。それはともかく名人級の技を後世に伝えるにはその技術を意匠として盛り込んだ靴を作って貰うのが一番、フォスターでは毎回上手くディレクションしてくれるので高い完成度の靴が出来上がってくる。

4.靴のインサイド・アウトサイド

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ベヴェルドウェイスト仕様ではないがそれでもトゥスプリングを十分感じさせるソールの仕上がり。インサイドに振った踵のシームは勿論スキンステッチで、踵を立体的に仕上げるだけでなくシームレスに見せてくれる。一方アウトサイドから見た靴はサイド(壁)がやや高いような気がする。ここをもう少し低くするとスリッポン独特の軽さが出てきそうな気がするので、パターンについては次のオーダー時に話し合ってみようと思う。

5.踵部分

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シームレス調のヒールはイタリアンシューズの雰囲気があるので、パンツの裾丈を短くしたピッティ風ジャケット&パンツスタイルに合いそうだ。自分では見えないが後ろ姿のパンツ裾からシームレスの踵が見えるのも悪くない。今回の靴は受け取り時はエイコーン単色で陰影のないのっぺりとした印象だった。そこでつま先やエプロン、サドルやヒール部分にシリコン入りのキィウィ・ワックス(茶)でポリッシングを施してみたところ程よいアンティークフィニッシュになったようだ。

6.ウェルト周辺

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ウェルト部分の仕上げも大変丁寧で実に美しい。フォスターでは毎回トップクラスのボトムメイカーに依頼していると聞いたが、今回も腕の立つ職人が担当してくれたのだろう。写真からもクローザーやボトムメイカーの技が感じられる。アッパーは明茶色で春から秋まで長い期間履ける色目を選んだ。付属のポリッシュはキィウィのミディアムブラウンだが、あまり濃くならないようニュートラルのポリッシュを併用しながら手入れをしていこうと考えている。

7.ソールの仕上げ

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ソールはスクェアウェイストに半カラス仕上げというイレギュラーな注文だが丁寧な仕上がりが見て取れる。踵には摩耗に強いフィリップスペシャルが装着され、つま先にもメタルトゥチップが付けられているので耐久性に問題はないだろう。何かと履く機会の多いカジュアル靴だがローテーション入りしても大丈夫に違いない。そのつま先だが、以前は返りが気になって釘2列を打つようお願いしていたが、最近はコバが綺麗に保たれるというメタルをリクエストすることも多い。

8.インソック

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今回はライニングやインソックの色は特に指定しなかったので、定石通り靴の色に合わせた茶色で仕上がってきた。前作までは続けて紫色のライニングを指定してきたがどうも茶色に紫というのはいただけない。ライニングといえども靴の相性を考えると何でもいいというわけにはいかないだろう。インソックのロゴは前作とは微妙に異なるようだが、それよりも改装なったフォスターの新店舗に未だ足を運んでいない。ロゴどころか店の雰囲気もぐっと変わったに違いない。

9.サドル部分

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サドル部分はアッパーと接する裏側の端を薄く削いでから縫い合わせているのだろう。サドルが目立ったり立って見えたりすることなく、どこから見ても綺麗に表面が寝ている。こうした細かな作業こそハンドメイドの真髄、機械を多用したアメリカのローファーがもつカジュアルな面持ちとは対極にある。目立たないがサドル部分はキィウィのポリッシュを縫って周囲よりも一段濃いめに仕上げている。おかげで陰影のはっきりした靴の前面になった。

10. シューツリー

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今回、シュー・ツリーは元のヒンジ式に戻されたが、依然緩めの仕上がりだ。ノーザンプトンのスプリングライン社は既成も注文靴のツリーも作っているが、昔のようなハンドメイドツリーではなくなったフォスターも外注に出しているのだろうか。ただ今回は軽量なのが有難い。きっと海外旅行時に威力を発揮するだろう。何しろ今回の旅でも純正超軽量ツリーの付いたウェストン・ローファーは実に重宝した。軽いツリーとすぐに履けるスリッポンシューズこそ旅の必携品と言える。

ローマのラッタンジで見たガットの靴は親会社の靴ラッタンジよりも安く、フィレンツェのボノーラは既に店がなくなっていた。パリのジョンロブ・ビスポークは見慣れぬサンプルばかりで、ベルルッティ本店に至っては何と鞄やデニムがトルソーとともにディスプレイされている。どこも馴染みのあったクラシックな靴はどこかへ行ってしまったようで、靴を取り巻く環境もこの10年ですっかり変ったことを感じる。そうなるとクラシックな英国靴が改めて魅力的に映る。

その英国靴だが最近は正統的な紐靴より今回のようなカジュアルばかり注文している。アイビー時代からローファーで慣れていることもあるが怠け癖がついてきたこともある。靴の脱ぎ履きが多い日本では紐靴よりスリッポンの方が断然便利で、スーツに紐靴は守るができることならばジャケットスタイルにスリッポンで過ごしたいのが本音だ。ただし、その場合ローファーではなくカジュアルを選ぶ。カジュアルという呼び名とは裏腹にジャケットスタイルをエレガントに格上げする英国製カジュアルこそ一つの理想、早速慣らし履きを始めているところだ。

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誂え靴(Bespoke shoes)」カテゴリの記事

コメント

久々のコメントです。本当に美いシルエットですね。フルサドルカジュアル正に横からの眺めはサドルシューズって感じですね!!話は変わりますが昔、日靴が制作しておりましたSFの4アイレットのサドルシューズがこのような流れるようなサドルシューズ造っていたのを思い出しました。色はホワイトオンホワイトでした。(これは完全なサドルシューズ)でしたが。

浦野亮祐様

早速のコメントを有難うございます。

確かにサドルがしっかり載っているように見えるのが今回のスリッポンシューズの特徴のようです。お蔭でしっかりと足をホールドしてくれます。

シェットランドフォックスの4アイレットのサドルシューズ、見たことはありませんが、ホワイトオンホワイトですからさぞ格好良かったのではないでしょうか…。

素晴らしい靴ですね!
この特殊なモカ縫い。正式には何という縫い方なのでしょうか?
ライトアングルモカのように主張しすぎることなく、それでいて確かな存在感があり絶妙ですね!
管理人様の感性とメイカーの技術が見事に融合した、まさにビスポークですね!

そうですね、ローファーとカジュアル浅学菲才の私風にもうすなら(あえて私のコレクションですが)前者はRLのマッケイソールの靴達でしょうか?後者のカジュアルと申しますとたったの1足、リーガルイーストコーストコレクションの以前お話いたしましたメダリオン付のタンカラーのフルサドルしかないようです。あまりにもショートノーズのスリッポン群ははたしてどちらのグループに属したらよいのか考えられますね。RLのソールが高級車のインパネ仕様のウヲールナットカラーのマッケイ仕立てはあ?ますます謎は深まるばかり・・・・・・・・

通りすがりのチワワ様

コメントを頂き有難う御座います。

さて、ご質問の縫い方の名前ですが、ピックステッチとも違うようですし、リバースドライトアングルモカステッチとでもいうのでしょうか?

アウトワーカーに指示を出す時どのように伝えるのか正式な名称を次に職人さんにあった時に聞いてみます。

仰るように通常のライトアングルモカステッチよりも目立たないのですが、モカステッチの山の部分が立って見えるのでU字部分がシャープになるような気がしてとても気に入っています。次回のブーツでもこのスタイルでフロントを作ってもらおうと思っています。

教えてくれた職人さんのおかげです。

浦野亮祐様

ラルフローレンのローファーは真のローファーで、トラッドやアイビーとの相性は抜群なのではないでしょうか。ただ、パープルレーベルのようなドレッシーなジャケットスタイルの場合は英国調カジュアル(靴)が合うかなと思います。

リーガルのイーストコーストコレクションもドレッシーなスタイルに合うよう作られているので浦野亮祐さまの推察通りかと思います。

極端にショートノーズのスリッポンはルームシューズのような立ち位置でしょうか。アランフラッサーが昔正統的なスーツにポールセン・スコーンのビスポークルームシューズを合わせていたのを思い出しました。

正に思っておったコメントに感激いたしました。こういった 感じで我が靴群を見つめなおしますとインポートの靴にシフトしなければいけない時期になってきたのでは・・・と思ってしまいました。(あーこの偏平足を恨みます)

浦野亮祐様

最近のローファーはアメリカのものも日本のものもヴァンプ部分が長く、英国調カジュアルに近い雰囲気がありますので国産、インポートの別なくドレッシーなジャケットスタイルに合う靴が見つかるのではないかと思います。

寧ろ昔よく履いていたコールハーンやオールデンのVANラストのローファーを今風の服に合わせるとちょっと違和感があります。ですのでそんな時はアイビー調の服装やラルフ流カジュアルスタイルに合わせています。

管理人様の返信に書いてありました、AF氏が履いておられましたP&Sのルームシューズ私もメンクラで拝見いたしました。AFに夢中になっておりました20数年前日米最大の合弁企業キャタピラー三菱よりバックホー(通称ユンボ)を購入した際にベージュのジャンパーを頂きました。結構、質、デザインも良く仕事着にはもったいなく着ていませんでしたので背面に大好きなフラッサーのロゴマーク、私に言わせれば三種の神器。シルクハット、ステッキ、グローブを刺繍施そうと思いつきました。イリノイ州のジャンパーに遠く離れたNY州のデザイナーとのコラボレイション。しかし何と言ってもメイカーの登録商標、勝手には出来ません。一応オンワードにこのような事思いつき施工したいよろしいでしょうか?と尋ねると快くOK出ました、そして出来上がったらフォトを送ってくれとの事。そこで三種の神器の上からシルクハットが淡い若草色、ステッキが黄色、グローブが赤とフラッサーのルームシューズと同色で発注いたしましたが正確には三種の神器の背面には縦長の楕円形があります(ルームシューズにはその縦長の楕円は付いておりませんでした)恐らく限られたトウーの面積にはゴチャゴチャして取り除かれてと思います。しかし凝り性の私その楕円の色は何色かと尋ねると服のロゴは一色。あなたに任せますとの事でしたので刺繍を頼んだ同級生が経営する作業服屋で相談し背面のベージュ、若草色、黄色、赤が冴えるようにと薄い灰色にしました。当時のお金で八千円。決して高いとは思ませんでした
これがオンワードの社内報(樫の樹)に登載され、以後フラッサーにのめりこんでしまったのです。今回も関係ない話でした。

浦野亮祐様

アランフラッサーのロゴをオンワードに許諾を貰って、色の配色等を考えられて別注に出したジャンパー、さぞかし思い入れのあるものになったのではないでしょうか。

それが後にオンワードの社内報に載るくらいですから、会社(樫山)でもきっと話題になったことと想像します。

お気に入りのものを無理せず楽しみながら追い求めていく。浦野亮祐様ならではのエピソードだと思いました。

こんばんは。
こちらのローファーのヒールの飾り釘の仕様がとても気に入ってしまいました。
ソール面の画像だけでも保存させていただけないでしょうか?

浪漫様

わざわざご連絡有り難う御座います。
二次使用以外、資料等にお使いならば構いません(^_^)

こんにちは。
エントリー内にあります、ロールステッチとピックステッチの違いを教えていただくことはできますか?
よろしくお願い申し上げます。

浪漫様

ピックステッチは別パーツのエプロン部分と両サイドのアッパーとを繋ぐステッチで、ドーバーのエプロンも同じような感じです。

一方ロールステッチは一枚革にステッチを掬うように入れながらロールケーキのようにこんもり盛り上げたU字のことを指すようです。

ありがとうございます。
なるほど、日本語ですと合わせモカと摘みモカといった感じでしょうか。
分かりやすかったです。

浪漫様

多少なりともお役に立てて良かったです。

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