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2012年9月22日 (土)

Norwegian Boots(クレバリーのブーツ)

1990年代、ステファノ・ブランキーニが古いスキー靴にヒントを得て作り出したノルヴェ(ノルウェジアン製法の意)の靴を見た時の驚きは今も忘れられない。当時はE・グリーンのドーバーあたりが手縫い靴の代表で、イタリアのジンターラがフルハンドメイドというふれこみで話題になった頃だ。クラシックさと斬新さが同居した外観、特にごついコバに幾重もの手縫いステッチが走る姿はブランキーニの名を知らしめるに十分だった。後を追うように似たようなノルヴェの靴が出され、ブランキーニ自身が名付けたノルヴェジェーゼなる言葉は語源であるノルウェジアンを超えて瞬く間に広がっていった。

やがて極端にコバの張った靴は姿を消し、1998年ローマのラッタンジで買い求めたノルヴェの靴になるとかなり洗練されたものになってくる。当時は靴を誂え始めた頃で、オーソドックスなウェルト靴が中心だったがいつかノルウェジアン製法の靴を誂えてみたいと思ったものだ。ところが5年ほど前、ヴィンテージのヘンリーマックスウェル製ノルウェジアン・ブーツを見て昔の感激が蘇った。いたたまれずに馴染みのフォスター&サンにノルヴェの短靴を、続けてクレバリーに同じくノルヴェの長靴を注文した。それから1年半、紆余曲折を経てようやく完成したクレバリーの最新作”ノルウェジアン・ブーツ”を今回は紹介したい。

1.ノルウェジアン・ウェルトのブーツ

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靴のデザインを指す場合と製法を指す場合があるノルウェジアン。ここでは勿論ノルウェジアン製法を指す。エレガントなシェイプと低く押さえられたアンソニークレバリートゥ。流れるラインが特徴のコンビネーションブーツだが、特に目を引くのが張り出したコバとトリプルステッチ。対応した職人によるとゴイサー(Goyser)と呼ばれる製法で、どうやら正しくはノルウェジアンウェルテッド製法ということになるらしい。ロンドンの誂え靴店ではサンプルといえども目にしたことのない手の込んだブーツがここにある。

2.コンビネーション・ブーツ

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デザインはE・グリーンのガルウェイとシャノンを合わせたものと言えばよいだろうか。内羽根のレースステイ下から始まる切り返しのラインがウェーブを描きながらヒールに連なっている。一方靴のボトムはストーム(リヴァース)ウェルト同様革の盾が壁となってアッパーを取り巻き、3重のステッチが等間隔のピッチできれいに並ぶ。スキー靴作りに用いられたというノルウェジアン製法同様、万が一雪の上を歩く時でも雪の侵入を確実に防ぐような本格的な作り込みが窺える。

3.アウトソール

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360度のノルウェジアンウェルトなので当然ウェスト部分はベヴェルドではなくスクェアな仕上げになる。靴に合わせた大きめのヒールリフトにクォーターラバーチップ、つま先部分にはメタルトゥチップを付けて耐久性の高いソールに仕上げてもらった。ウェスト部分の半カラス仕上げは特にリクエストした覚えはないのでボトムメイカーの配慮なのかもしれない。この角度から見るブーツのシェイプ、中でもスクエアなつま先の美しさは別格だ。ポルシェではないが最新の靴は最上の靴といったところか。

4.つま先部分とウェルト周辺

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丸と小丸のパンチング入りのキャップトゥは小ぶりながら程よいバランスで被せられている。チゼルトゥではなくエッジを寝かせたラインが特徴のつま先は、靴の主流がラウンドになろうとスクェアに戻ろうと変わらない美しさがある。ウェルトに走る3本のステッチは上段がインソールに、中央がミドルソールに、下段がアウトソールまで縫い込まれているのだろうか、近いうちに詳しい靴職人に聞いてみたいと思う。1年前に仕様違いで作り直した時は切り返しのパーフォレーションやつま先のメダリオンをリクエストしていたのだがいつの間にか異なるデザインで仕上がっている。これもまたビスポークならでは。

5.ヒール

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ヒール側から見たブーツ。踵にビブラムソールでも装着されていればまさにスキーブーツかマウンテンブーツを思わせる。鞍部よりフロント部分のみノルウェジアンウェルト製法にしてウェストはベヴェルドで仕上げ、踵はドレスタイプの個性的なブーツを同じクレバリーのビスポークで見たが、こちらは今までのクレバリーにはない一見東欧の靴に近いイメージがある。履き口後ろに見える着脱用の持ち出しはタブもループも選択できるが、持ち易さを優先してループにしてみた。

6.ブーツのインサイド

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短靴のラストを用いて作られるショートブーツ、注文時の新たな計測は履き口までの高さと足首の周囲だけなので当然ながら出来上がる靴のシェイプは従来と同じになる。それでもつま先からインステップ上部のフック辺りまでのラインは短靴とも違う複雑な曲線を描いている。5アイレットで3フックが通常のところ、クレバリーでは4アイレットに3フックで仕上げてきた。当然後者のほうが履き易くまた脱ぎ易い訳で、このあたりもビスポークならば細かな対応が可能になる。

7.靴のアウトサイド

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仮縫い状態のブーツと比べると厚めのソールが付いた分よりハードな印象を受ける。実際靴の内側、特にアーチ部分にはソールの硬さにアッパーが負けないようアーチサポートが装着されているほどだ。納品時にポリッシングされているのでカーフ部分の艶は十分。それでも少しだけ変化を付けようとシリコン入りキィウィワックスでキャップ部分を鏡面仕上げにしてみた。ウェルト部分をもう少し明茶色の革にしてノルヴェのステッチを麻色のものにすると元祖ノルヴェジェーゼに負けない迫力が出てくるだろう。

8.切り返し

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仮縫い時にも書いたが切り返し部分は靴のインサイドアーチ上部で革を縫い合わせている。切り返しがストレートに横切るバルモラルよりも複雑で如何にもビスポーク風の味付けだ。クレバリーのウェブサイトには見当たらないデザインなので、他の靴メイカーのモデルを参考にしたのかもしれない。そういえば日本の顧客が以前オーダーしたものを見かけたことがある。トランクショウの利点はロンドンに行かずとも注文できることだけでなく、こうして他の顧客の靴を拝見できることにもある。後に自身の注文時の参考になるからだ。

9.ハーフミドルソール

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今回のもう一つの目玉が写真のハーフミドルソール。既成靴ではE.グリーンのドーヴァーで有名なスペードソールと同じだが、正しくはハーフミッドあるいはハーフミドルと呼ぶらしい。写真でも分かるが、ウェスト部分より前のウェルトとアウトソールの間にシングルソールをサンドウィッチしたもの。ソールの前半分はダブルソールながらウェスト部分がシングルということで、耐久性と屈曲性の両方が確保できる。完成した靴はいつもと同じでとても曲げ易い。慣れればもっと効果が実感できるのではないかと期待している。

10.コンビネーションレザー

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カーフとピッグスキンのコンビネーション。既にクレバリーでは26足注文し終えたところだが、いつだったか「ピッグスキンの靴を注文しないか?」とグラスゴー氏に誘われたことがある。素材の雰囲気からカントリー調の靴が合うだろうと思い、注文するタイミングを窺っていたところだった。特に最近は異素材のコンビ靴を注文する客がクレバリーでも増え、クードゥーやマウンテンラム、ヒッポなどエキゾチックレザーが揃っている。あれこれ迷ったが昔の薦めに従ってピッグスキンを使ったコンビ靴にしてみた。

初めてロンドンの注文靴屋を訪れた頃はどこもエレガントな短靴が中心で、野趣あふれるノルウェジアンの靴を見かけることはまずなかった。一方でパリやミラノの靴屋では手の込んだステッチが特徴のノルウェジアン・シューズが大抵の場合置いてあって、作るならイタリアかフランスだろうと目星をつけていた時期もある。3年前、初めてフォスター&サンにノルウェジアン製法の短靴を頼んだ時でさえ当時のアウトワーカーは「ずっと経験したことがなかったから一つ一つ思い出しながら作業を進めていった。」らしい。さぞ苦労したことと思う。

ところが今回イギリスはロンドンのクレバリーが作り上げたブーツは元祖ステファノ・ブランキーニやシルヴァノ・ラッタンジ、最近ではペロン&ペロンやベッタニン&ベントゥーリあたりのデコラティブな靴を凌ぐ程の出来栄えだ。イタリア靴らしいこれ見よがしなところはないが、その分飾り気なしの迫力がある。クレバリーらしからぬとも言えそうなワイルドでタフなブーツは、ジェントルな靴作りと職人の進取果敢な技が融合した新境地。このところずっとローファーを頼んでいたが、これから暫くはブーツに凝ってしまいそうだ。

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誂え靴(Bespoke shoes)」カテゴリの記事

コメント

管理人様

今回のクレバリーコンビブーツも、これまで見たことのない洗練された素晴らしいノルヴェブーツですね。
コバ、ヒール、ピッグとのコンビの洗練された感じは圧巻です。
所有して気に入っております既成のガジアーノ&ガーリンググレインレザーとのコンビブーツWigmoreとは、比較になりません。

先に受取りましたジョン・ロブ2足は現在トゥーチップを、銀座三越のRESHさんで付けていただいております。
RESHさんのWEBブログ(http://reshginza.tamaliver.jp/)に、来週位に掲載していただく様お願いいたしました。
管理人様の靴には到底及びませんが、週末のお時間のある際にでも閲覧いただければ幸いです。
フォスター&サンの新作画像も、是非またの機会に拝見させて下さい。
宜しくお願いいたします。

Shige様

早速のコメントを有難うございました。

仰るとおり、イタリアのものよりも抑揚の効いた、そしてフランスよりもジェントルで手仕事の光るブーツに仕上がったのではないかと我ながら満足しています。仕様違いで作り直しがありましたが1年半をかけて出来上がったブーツはクレバリーの力量を知らしめるに十分な1足でした。

今同じようにブーツをフォスター&サンで作っていますがこちらはモックアップから始めるということですので期待も高くなります。10月終わりにモックアップの仮縫いがありますのでその時の様子をご紹介できればと思います。

Shige様は受け取られた靴を三越のRESHさんに出されたのですね。私も連絡を取って話を聞きお願いしようと思っていたのですが、生憎新宿へ行く用があり急遽地下1階の靴修理カウンターに預けました。そうそう、預けた靴はウェストンとポールスチュアートのアリゲータ靴で、ウェストンはメタルチップをポールスチュアートの方はアメリカンペニー、即ちマッケイ製法ですのでビブラムのハーフラバーを装着しました。

RESHさんでShige様の靴がアップされるのを楽しみにしております。特にリザードの靴は一度拝見したいと思っていましたので感激です。お気遣いとお店の方のご厚意にも感謝いたします。有難う御座いました。

私のコレクションでは、遠く及ばない世界。拝見させて書き込みさせて頂くだけで生きてきてよかった!!と思わずにはいられません。靴上部のスコッチグレン、下部の光沢カーフソールの半カラス。オーダー受けただけで職人が半カラス仕様させて下さいと思って施工なされたと察します。

浦野亮祐様

早速のコメントを有難うございました。

半カラス仕上げは多分職人さんの気紛れだと思います。または、ハーフミドルソールにしたので薄くなったウェスト部分を強調しようと茶を入れたのかもしれません。

あまり細かく言いすぎず職人さんに任せるというのも案外良いことなのではと思っています。

こんにちは、
こちらは大変美しいですね。私の偏見ですが、通常ノルウェジアンはコバが張っている物が多いためドレスマインドは薄く、野趣あふれる風合いの物が多いと思っています。一方で、管理人様のクレバリーはコバがステッチギリギリまで削られている為、トゥーの美しさが損なわれておらず、生地によっては十分スーツにタイで合せられるように思います。是非、次はこのブーツを基軸としたコーディネートを紹介していただきたい、そう思います。

れの様

コメントを有難うございます。

れの様仰るとおりノルウェジアン(ウェルト)製法ははコバが張りがちですが、近年はマルモラーダのブーツのように目立たないものも見られるようになりました。そのマルモラーダ、私も好きで欲しいなと思っているのですが中々実現しません。

スーツにも合うとのお言葉、近いうちにジャケットスタイル(カントリー)でご紹介させて頂きますが、スーツとなるともう一段難しいので宿題にさせて頂ければ幸いです。

返答ありがとうございます。
マルモラーダも確かにコバがギリギリまで削られていますね。興味は有るのですが、手持ちの服のどれにも合わないので購入には至っておりません。あと、私の主観ですが、素材と作りにしては価格が高すぎると思うのですがいかがでしょう?

私でしたら、ツイードの3ピースだと、フルブローグかチャーチのシャノンのようなぽってり靴、そして管理人様のコンビ&ノルウェジアンブーツなどを知らない顔して履くと思います。管理人様のブーツがコンビでなければ、ウーステッドの生地でも堂々と履いている所ですね。ただ、シューレースのフックの部分(正式名称はなんなのでしょうか?)が見えないように何かしら工夫はするかもしれません。

れの様

コメントを有難うございました。

マルモラーダ、確かアメリカではPRPLで1,500㌦、日本でも13万円ですからどこで買っても値段的は高めですね。革質と作りについてはそれなりだと思いますが、今までのマウンテンブーツの中ではぴか一の格好良さが気に入っています。

さて、今回のクレバリー謹製ブーツですが確かにツィードのスーツに合いそうです。今度一度試してみようと思いました。ただ、いざとなったられの様の仰るとおりフルブローグやチャーチズのシャノンタイプを選んでしまいそうですが。

いつもブログ楽しみにしています。相変わらず靴の出来は
素晴らしいですね。

ところで質問があります。クレバリーには前回、トランクショーで注文しました。1足目の出来栄えによっては、2足目以降も検討中です。ただ当方、東京から遠方に住んでおり、次のトランクショーにいくのもなかなか大変なため、グラスゴー氏に直接メールでの注文を考えています。カタログやホームページによれば、可能な感じがしますが、実際のところ、どうなんでしょうか?管理人さんはメールで注文したことありますか?

もちろん仮縫いは行かなければならないでしょうが、2足目以降も、注文するときは再度足を測ったりするものなのでしょうか?

お忙しいところ恐縮ですが、アドバイスいただけるとありがたいです。

北海道さん

コメントを有難う御座います。

さて、ご質問の「次のオーダーをメールで直接」は可能か?ですが、勿論可能です。

ただ1足目の出来上がりの結果や履いた時の様子をフィッターに直接見せて伝えることは重要なポイントではないかと思います。それと、どんな革を選ぶのかというのも予め見なくても想像がつく黒のカーフとかタバコスェードメールでない限り中々難しいと思います。

まず3足目位まではトランクショウに毎回出かけて木型の完成度と定番の革のストック状況を掴み、そこからはメールで注文→仮縫い時に上京→完成した靴は郵送でという流れも可能になると思います。

私は1足目の納品後、無謀にも履いた状態の写真をメールで送り木型のモディフィケーションをお願いして2足目の注文ををしたことがあります。

デザインはイラストでファックス送信、革は黒のボックスカーフを現物を見ずに選びました。それがフォスターの2足目です。 もっとも当時は日本でのトランクショウを行っていなかった時代ですが…。

勿論仮縫いなしで納品のみロンドンで受け取りでした。

早速のご返事ありがとうございます。クレバリーの場合、
2月は職人でないグラスゴー氏が来日されるようなので
1足目の改善してほしい状況をこちらもうまく伝えられないのではないかと思いました。

それと2足目に作りたい靴のデザインや革の色などはほぼ決まっているのでメールでもOKかと思いました。

1足目は2月前には届くようなので、その出来を見てからトランクショーに行くかどうか決めます。ご助言ありがとうございました。

管理人様

RESH銀座三越店様のブログにアップして頂けましたので、お暇な際にご覧いただければ幸いです。
NASEBYはシームがやはり入ってしまいます。
クレバリー、フォスターでビスポークをされている管理人様を考えると率直な所、ヴァリューがあるかこれらは微妙です。
私には到底無理な憧れのネイビー、レッド、またグリーンのアリゲーターもしくはクロコダイルの靴のビスポークをいずれ是非して頂ければ、誠に勝手ながら有難いです。
失礼いたしました。

北海道さん

お返事が遅れて申し訳ありませんでした。

グラスゴーさんは今はマネジメントを中心とした代表ですが、昔は職人さんだったのではないでしょうか。彼に採寸して貰った顧客もいらっしゃると思います。

ただ、北海道さんの足を採寸されたのが9月に来るレッパネンさんであったとしたら、次の9月に来日する時に相談された方ががよいかもしれません。いずれにしましても2足目のデザイン、革までほぼ決まっていらっしゃるということですので、フィッティングに問題がなければメールのやり取りで仮縫いまでは進めても問題ないのではないでしょうか。

Shige様

銀座RESHのブログ拝見しました。

ゴールドリザードのダブルモンク素晴らしいです。コバを見ますとウィールが入っていますのでプレステージラインなのでしょうが、半カラス仕上げではないところもバイリクエストらしくて好感が持てます。

何より素材の色の美しいこと、室内ですので多少色目が違うのかもしれませんが、ややオレンジがかっていて同じ素材があったらローファーで私も欲しいくらいです。

踵にシームが入るとのことですがリザードの革はアリゲータよりも小さいので、もしかするとシームなしでカットするのは難しいのではないでしょうか。

他のジョンロブを所有されている方と作りは同じですが素材はエクスクルーシヴですので間違いなくShige様のオーダーされた靴にはヴァリューがあります。

もう1足のレドマイヤーも素敵です。モンクストラップは自分に合わないと思いダブルモンクを1足持っているくらいでしたが、写真を拝見して似た色目で今度1足作ろうと思いました。

また機会がありましたら素晴らしい靴を派遣させて頂ければと思います。有難う御座いました。

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