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2012年2月11日 (土)

Norwegian boot

記録的な豪雪だった1月が過ぎ、立春を迎えたあたりから少しずつ空気も温んできているようだ。穏やかな天気となった2月最初の週末、恒例のクレバリーとファーラン&ハービー(デイヴィス&サン)のトランクショウに出かけた。今回は仮縫いと新たな注文だけだったが、最近はオーダーを通じて知り合った友人やロンドンから来た職人との再会の方が楽しみになっている。特に今回はパーティもあり、思い出に残る満ち足りた一日になったのは言うまでもない。

目下クレバリーではブーツとタッセルローファーを注文している。今回は本来ならブーツの受け取りのはずだが前回の仮縫いで手違いがあり、作り直しの上再仮縫いとなった。結局注文から完成まで1年半要することになる。だが、ハリウッドでのトランクショウで鰐革の靴を同じ型で一遍に25足注文したスターの話を聞いたところ、「たとえ有名人であっても作るラストは1ペア、1足にかかる時間も他の顧客と同じ。完成まで相当な時間がかかる」とのことだった。つまり誂え靴とは時間がかかるものなのだ。そこで、今回は時間をかけて製作中のブーツを仮縫いの様子も含め紹介してみたい。

1.コンビネーションブーツ

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シンプルなキャップトゥのデザインは一見ドレッシーなブーツのようだ。ところがコバ周辺をよく見るとノルウェジアンステッチが入っていたり、ピッグスキンとカーフのコンビネーションになっていたりと誂えならではの迫力が感じられる。実は前回の仮縫い時はピッグスキンがスェードに、ノルウェジアン仕立てがストームウェルト仕立てになっていたので完全に作り直しとなった。今回追加で最上部3つのアイレットをフックにするよう注文を入れている。

2.ボトムメイキング

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インソール裏側は中板で覆われているので、いつものハンドソーンのような中底にフェザーを立てた跡や縫い込まれたウェルトの掬い縫いは見えない。360度のノルウェジアンステッチが入るので、ウェイスト部分はべヴェルドではなくスクェアになるとのこと。厚めのシングルソール、ダブルソールのどちらにするか迷ったが、ヴェンドしやすいようにE.グリーンのドーバー同様ハーフミッドソールをリクエスト、ついでにつま先にメタルトゥチップを付けるようお願いした。

3.つま先部分

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前回の仮縫い時はつま先のメダリオンや切り返し部分にパーフォレーションが入るセミブローグタイプだったが、今回は全く別のタイプになっている。あまり細かな注文をしないせいなのだが、これだけ変わるというのも不思議だ。誰がディレクションしたのか分からないが、結果的には今回のパンチドキャップトゥの方がごつくてエレガントなブーツというイメージに合っていたのでこのままゴーサインを出した。最近はあまりこだわらず任せることが多い。その方が未知の1足に出会える楽しみがあるからだ。

4.上から見たブーツ

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長いクレバリーのオーダーの中で2度目のパンチドキャップトゥ。昔はビジーで迫力のあるセミブローグやフルブローグの方が好みだったが、最近昔のドイツの靴雑誌で外羽根のパンチドキャップトゥブーツの写真を見つけ、その格好よさに心惹かれていたところだった。今回のブーツも黒革で作ったらその雑誌に載っていたドレスブーツにも負けないものになりそうだ。上3つはフックにしたが残りのアイレットもドレッシーな雰囲気を大切にハト目にしなかった。

5.ブーツのインサイド

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低いつま先からカーブを描いて一気に登るフロントライン。改めて自分の足が甲高であることを実感する。時間をかけて足入れするといつもより長く、そして大きく「プシュー」っと空気の抜ける音が聞こえた。フィッティングは申し分なく、ハードな外観ながら快適な履き心地が期待できる。実物を見るまでイメージが湧かないのがコンビ靴。今回の組み合わせは正解だったようで、このところサンプルの多いコンビの靴はどうやらクレバリーの新しいハウススタイルになりつつあるようだ。

6.ブーツのアウトサイド

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靴のアウトサイド側はV字型の部分切り返しがないので、よりすっきりとしたデザインに見える。もともとピッグスキンとカーフのコンビネーションはイメージにあったが、革を決めるにあたっては職人とカーフ、ピッグスキン両方の革見本をあれこれ組み合わせながら決めていった。コンビの定番は同系色のグラデーション(カーフ同士)か艶有りと艶無し(カーフとスェードやバックスキン)だが、今回は異素材(カーフとマウンテンラムなど)の組み合わせに挑戦した。ある程度誂え靴が揃ったらコンビに挑戦するのも中々楽しい。

7.靴の内側

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以前ならば注文時の年月を手書きした部分はエドワードグリーンのように丸い窓になっていたがどうも最近のクレバリーは時々省くようだ。尤も履き心地には全く関係のないことなので気にはしていない。履き口後部のプルタブはブーツを履くときに欠かせない便利なもの。ドレッシーなブーツならば敢えて付けないという選択肢もあるようだが、カジュアルなノルウェジアンブーツには必要だろう。

8.踵部分

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この角度から見るとアメリカのアウトドアブーツのようなごつささえ感じる。踵部分は既にコバが充分張っているが、底付け後は出し縫いが加わって無骨な雰囲気も一段とアップするはず。もともと登山靴に用いられるカントリーブーツの製法とドレッシーなスクェアトゥ、カジュアルなコンビネーション・レザーとエレガントなデザインといった相反する二つの要素を上手く組み合わせて1足の靴に仕上げることができるのも誂え靴ならでは。

9.アイレットから履き口付近

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アイレットは7つ、上部3列をフックにすると4アイレッツになる。既成靴では米国のオールデンが5アイレッツに3フック、英国のエドワードグリーンは4アイレッツに4フックだった。ビスポークの場合はブーツの全高にもよるだろうが、概ね4アイレッツに3フックが定番のようだ。今回仮縫い状態まで仕上がったブーツを見ているだけで、もう次の1足が欲しくなってくる。どうやらブーツには短靴とは別の魅力があるらしい。

10.ピッグスキン

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ピッグスキンは靴の素材としては頑丈な部類に入る革なのだろうか、踝部分に当たる感じはカーフのグレインレザーよりも硬い。ただ、グレインレザーとは違う天然素材ならではの表情、特に3つの毛穴が綺麗に並んだ表面は昔から気になっていた。残念ながら既成靴では扱いがないため、誂えでしか味わえない革になる。そこでいつかは注文しようと考えていたところにピッグスキンで作られたビスポークローファーを見たことが今回の注文の大きなきっかけとなっている。

ブーツと靴の誂えは似ているようで異なる部分が結構ある。足首上部の周囲や踵からの長さなど追加で採寸したこともそうだが、最も大きな違いは当たり前だが短靴より靴の面積が多いことだ。デザインの見え方やコンビにした時の革の分量など中々イメージしにくい。加えてアイレッツかフック付きか、プルタブを付けるか否か、踵からアンクル部分のデザインやソールの仕様など短靴以上にあれこれ考えを巡らす必要がある。

何よりもブーツはそれ自体存在感がある。プレーンなつま先であってもブーツになるだけでぐっと目立つ。ショップで見かけるものはドレススタイルを意識したエレガントなものが多いようだが、せっかくの誂え、スタイリッシュかつカントリーウェアとも合わせられる欲張りなものが欲しいと思っていた。ようやく注文してから1年、待ち望んでいた完成も近づいてきた。どうせなら今秋のデリバリーに合わせて今のうちからジャケットやアウターも揃えておこうと考えている。

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誂え靴(Bespoke shoes)」カテゴリの記事

コメント

このブーツ、すごく良さそうですね。
私も短靴のラストを利用したチャッカーを持っておりますが、やはり一番、誂え靴の中でも履き着心地が良いです。
「本人の為に作るラストは1ペア」ということはブーツ用のラストではないということでしょうか??とてもそうは見えないのですが、どちらにしろとても履き心地、スタイリングが良さそうでうらやましいです。

NNさん

早速のコメントを有難うございます。

申し訳ありません誤解を招いたようです。「ラストを作るのは1ペアのみ」というのは、ハリウッドのスターが一遍に25足のアリゲータの短靴を注文したことについての話です。

スターならではの我儘で「同じラストを幾つか用意させ、一遍に多くのアウトワーカーに作らせれば25足分の納期が短縮できるのでは?」と質問したのですが、答えは「1ペアしか作らない。」ということでした。王族や有名人も、一般市民も工程上の差はないということでしょうか。

もう1足フォスターでもブーツの製作にかかりました。こちらは初めてのデザインということなのでモックアップ(仮縫いだけの為に作られる専用の靴の意)から始めるそうです。こちらも優に1年半はかかるでしょう。

クレバリー初のブーツは中々良いものになりそうで私も楽しみにしています。

管理人様

ご丁寧な回答ありがとうございます。英国靴の仮縫いのイメージがなんとなくつかめました。日本の工房だとモックアップを何遍もするとことが多いように感じます。ただ一回で作るにこしたことはないですよね。さすが英国です。25足の納期。。。一年ラスト作りに使うとして他は仮縫い抜きでも一足3ヶ月(ただ革が違うごとに仮縫いするんですよね。。。)と計算すると10年ですか。毎年、楽しみですね。(笑)

NNさん

こちらこそ、いつも素早い返信を有難うございます。

モックアップですが、フォスターでは通常と同じ革が十分あれば端の方を使って仮縫い専用の靴を作り、その後本物の靴の製作に取り掛かるそうです。

私の知る限りモックアップの靴を作るのはロンドンでは今回のフォスターが初めてで、恐らく他のどこでも作らないと思います。昔は当たり前だったと言われるモックアップ製作も今では効率化の下に消えた工程ですが、フォスターでは復活させるようで、担当の職人のプロ意識の高さを強く感じました。

実際フォスターの靴は極めて優れた靴を作る(あるいは作ることが出来る)ための不断の努力を欠かさず行っていることがどの靴からも、そして担当の職人からも常に感じられます。

管理人様

モックアップの件、情報ありがとうございます。正直、フォスター、クレバリーともに本番用の革で仮縫いをして修正する記憶だったので合点がいきました。モックアップせずともフィットさせるんだすごいなと思っていたので、、、フォスターも変わりつつあるんですね。
日本の誂え靴だとモックアップ制作するところはたくさんありますよね。リーガル東京、emori(片足のみ)、サイオン(ビスポーク)、フルハタ、
等々。。。
前述された管理人様が誂える日本の靴、楽しみにしております。

NNさん

実はフォスターが今回初のモックアップを行うことを決断したのは今までのフォスターの歴史の中で全く手がけたことののないデザインのブーツをオーダーしたからなのです。

クレバリーでコンビのブーツをオーダーした時に「短靴と違ってブーツの場合バランスや出来上がりのイメージが掴みにくい。」と今回のブログでも書きましたが、同じように今まで経験したことのないブーツのオーダーが来た場合、メイカー側も出来上がりのイメージやバランスを掴み難いのだと思います。

すばらしいブーツですね。完成品のHPでのアップ楽しみにしています。

ところでクレバリーはラフターンからラストを製作するのでしょうか?フォスターはラフターンから作るそうですが。

ラストメイキングでラフターンから作る場合とベースラストから作る場合では、靴の出来に大きな違いが出来るとお思いですか。管理人さんのご意見をお聞かせください。

日本人職人の何人かに聞いたのですが、ラフターンからラスト削るのは難しいと言っている人が大半でした。ラフターンからラストメイキングしている職人は日本ではマンドールの村田さんくらいだと思います。みな自信ないからパターンオーダーが主流なのでしょう。当たり前のようにラフターンから削るフォスターとベースラストを調整する日本の職人の間にはまだまだ開きがあると思います。ラフターンから削る力量がある職人が自分で作製したベースラストから作る場合はまた事情が違うのでしょうけれども。

北海道さん

コメントを頂き有難う御座います。

クレバリーの場合はラウンドやスクェアなど何種類かのベースラストを持っていてその中からオーダーに応じてベースラストを決め、ラスト作りに取り掛かるのではないかと思います。昔ベースラストを見せてもらいましたのでラフターンからではないのではないでしょうか。

フォスターの方は製作途中のラストの様子を見るとラフターンを削っているように見受けられます。尤も全くのブロック型なのかある程度ラストの形になったラフカットなのか製作途中の様子を見させてもらったことはないので詳しいことは分かりません。

ベースラストから作る場合とラフターンから作る場合とで靴のフィッティングに大きな違いが出るかどうかとのご質問ですが、最初のラストの形状よりも顧客の足の測定ポイントとポイントの間の微妙な凹凸や特徴的な足の形状(部分的な突起など)をどれだけ(3Dで)ラストに再現し、曲線を作り上げるのかが重要なのではと個人的には思っています。

ありがとうございました。やはり職人の経験値、センスに
よるところが大きいのでしょうね。クレバリーやフォスターは日本人職人に比べて扱っている数が違うでしょうから
腕が磨かれるのでしょう。

北海道さん

早速の返信を有難うございました。

靴を作る工程については日本の職人さんの力量は年々上がってきているのではないでしょうか。これだけ世界中の名靴が集まる国はそうはないと思います。

それらを間近に見たり、触れたり、雑誌などの媒体を通じて情報として知りえる環境にある日本では志のある職人の腕は大いに磨かれることと思います。

ですが北海道さんの仰るようにラスト作りは出来上がった靴を見ても腕は磨かれません。採寸→仮縫い→納品→修正→追加注文の過程で様々な経験を蓄積し、自ら削りながら徐々にラストメイカーと名乗れるようになるのではないでしょうか。

日本の誂え靴店がどれだけ注文靴を受注しているか分かりませんが、クレバリーやフォスターの数と比べると少ないのではないかと想像します。当たりはずれがあるにせよ、受注数が多ければ腕は磨かれていくのではと思っています。

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