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2011年10月23日 (日)

Semi-brogue or Full-brogue?

英国紳士服の魅力を知ったのは1990年代、最初にハケットが日本に上陸した頃に遡る。自由が丘や銀座のショップに足繁く通い、池袋や南青山に新たなショップができると必ず新店にも顔を出した。行く先々で髭のT店長に出会ったが、彼もまた店の変遷を追うように現場を変えていたようだ。彼とは単なる買い物だけでなく当時のロンドン事情や英国調のコーディネイトなど色々な話をさせてもらった。スコティッシュの手編みセーターを買った時などは赤のドットタイを頂いたこともある。後になってミラノやロンドンのショップでは馴染みの客にアクセサリーをプレゼントすることを知ったが、ハケットはずっと前からそういった粋な計らいが上手いショップだった。

ある時ハケットの店頭にある黒のフルブローグとセミブローグの違いについて話したことがある。どちらもビジネスで履く靴の基本だがシティ(ロンドンの)では「シングルブレステッドのスーツにはフル・ブローグを、ダブルブレステッドのスーツにはセミ・ブローグを合わせる。」というのを聞いた。何でもダブルのスーツにW(ダブリュ)の切り返しがあるフル・ブローグではビジー過ぎるということらしい。確かに納得できる話だった。あれから年月が過ぎていつの間にか黒のブローグもだいぶ増えた。髭のT店長と合うことはなくなったが、あの時の靴談義は今も靴選びのヒントになっている。そこで今回は黒のフルブローグとセミブローグを並べながら両者の魅力について考えてみようと思う。

1.フルブローグとセミブローグ

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黒のカーフ素材でオーダーしたセミブローグ(左側4足)とフルブローグ(右側4足)。正確にはレースアップのオックスフォードだけでなくサイドエラスティックシューズやアデレイドタイプのものまで様々だ。黒の靴は革の濃淡がないので、その分デザインやスタイルの違いを意識してバリエーションを増やしていくことが必要だろう。勿論他人はどのような靴を持っているかなど知る由もないし、昨日とどこが違う靴を履いているのか興味をもつ者もいないだろう。それでも「昨日と似ているようでどこか違う靴を履く」ことに拘るのも着こなしの妙だと思う。

2.フルブローグ

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左からクレバリー(フルブローグ)、クレバリー(レイジーマンフルブローグ)ボノーラ(フルブローグ)、サンクリスピン(フルブローグアデレイド)の4足。左側2足(クレバリー)はサビルロウスタイルのスーツに、右側2足(ルーマニア製)はイタリアンクラシックなスーツに専ら合わせている。勿論シングルブレステッドのスーツが中心で、たまに黒のスーツやブレザールックに合わせることもあるが、ダブルブレステッドのスーツは除外している。

3.フルブローグのトゥデザインやシェイプの違い

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トゥのデザインは左からラムズホーン、イニシャル、バタフライ、シスル(アザミ)と1足ずつ異なる。またつま先のシェイプもチゼルトゥ、エッグトゥ、スクェアトゥ、スライトリースクェアと違っていて傍から見れば同じように見える靴だがどこかしら意識的に変えて注文をしてきた。フルブローグはやや無骨なくらいがちょうどよく、男の靴としての魅力が凝縮されていると思う。ストレートキャップトゥは身嗜みの必需品、早めに誂えるべしという声を聞くが、未だに注文していない。誂えこそ気にいったデザイン、欲しいスタイルから誂えるほうが断然楽しいからだ。

4.セミブローグ

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左からクレバリー(サイドエラスティック)、クレバリー(バルモラル)、フォスター(セミブローグ)、メッシーナ(アデレイド)で、つま先もやはり1足毎に異なっている。甲の部分はトラウザーズの裾が乗ることを考えると見えるのはヴァンプ部分から前が殆どになる。特にキャップの大きさ、あるいはキャップ端の処理(ギンピングの有無)など些細な違いが思ったよりも見た目に影響するのがセミブローグだと思う。

5.フルブローグのトゥデザインやシェイプの違い

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トゥデザインはラムズホーン、イニシャル、ラムズホーン、クレストとなっているが、同じラムズホーンでもキャップの付け根側が左端(クレバリー)のように1本線か、左から3足目(フォスター)のように2本線かという違いがある。もっともここまで拘る必要など全くないのだが、何足か注文していると差別化を図る場所が限られてくる。後はカウンター部分にもブローギングを施すスタイルが残っているくらいだろうか。

6.フォスターVSサンクリスピン

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つま先の雰囲気はだいぶ異なるが靴の長さやレースステイ周辺など互いに似た雰囲気を残している。どちらもツィステッドラストになっているところなどサンクリスピンの靴が英国の靴の影響を強く受けている様子もうかがえる。左のフォスターはサビルロウ仕立てからイタリアのサルトものまでどちらにも合わせるが、サンクリスピンの方はアヒルの嘴のようなスクェアトゥなので専らクラシックイタリアンスタイルに合わせている。

7.メッシーナVSクレバリー

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足の大きさに忠実なラスト作りの2足。全長はもとよりレースステイの位置やヒールの大きさなどもよく似ている。メッシーナの当主は英国の靴をよく知っており、注文時にラスト作り用に置いていったロイドの#33ドーバーを見てジョンロブかと聞く程だ。クラシックなイタリアンスクェアトゥのメッシーナはリヴェラーノやセミナーラなどイタリアのサルトものとの相性が良く、一方のクレバリーは革の重なりが大きいストロングフルブローグと呼ばれるタイプなのでフランネルなどある程度重さのある生地のスーツに合わせている。

8.クレバリーVSクレバリー

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同じ時期に作った2足のクレバリー。左のセミブローグが3/16インチに対して右のフルブローグが1/4インチのソールということで、セミブローグの方がやや華奢な雰囲気がある。どちらもイミテーションのブローグなので軽くて返りも良いのだが、その分春夏物の軽いスーツの方がマッチするだろう。この夏はレイジーマンを履くことが多かった。間もなくフォスターで注文したレイジーマンのフルブローグも届くので来夏用の黒靴のバリエーションが増えると思う。

9.クレバリーVSボノーラ

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クレバリーとボノーラ。右のボノーラの方がコバの張り方も大きく、アーチ部分(セミスクェアウェイスト)の処理も武骨な感じがする。グレーヘリンボーンの様なヘビーツィードのスーツに合いそうだ。一方左のクレバリーは1足目ということで足に忠実なラスト作りを行っている。カネーラ氏は採寸時に「ややバルキーな足だからサンプルのように細くはできない。」と言われたことを思い出す。ショートノーズ気味なので裾幅の狭いトラウザーズとジャケットのスタイルに合わせることが多い。

10.ライニングの選択

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黒靴ではライニングに凝った選択をしたこともある。左からサンクリスピン、クレバリー、クレバリー、フォスター。靴を脱ぐ習慣の殆ど無い欧米では文字通り密かな楽しみかも知れないが、日本では料亭など靴を脱ぐときに派手なライニングを見て驚かれたりすることもある。仕事で靴を脱ぐ必要がある時はよく考えて靴を選択した方が良いかもしれない。尤も靴を買いに行く時などこのライニングから思わず話が広がることも多い。

ハケットが日本を撤退したのは2000年頃、最後に髭の店長と話をしたのは青山ベルコモンズのある交差点のショップだった。クレバリーで靴を作り始め、スーツも誂え始めていた頃だったので専らアクセサリーを見てまわり、デタッチャブルカラーシャツの替え襟を全て買い求めたのがハケットでの最後の買い物になった。英国の着こなしやセミブローグとフルブローグの違いを教えてくれたハケットの撤退は残念だったが、その頃は定期的にロンドンを訪問するようになっていたので、必要なことはロンドンで直接学ぶようになっていた。

2000年頃からクラシコイタリアのブームが続き、銀座天賞堂近くのテイジンメンズショップもエンツォボナフェの靴を扱っていた。ある時ボナフェの靴を買いに入ったところ思わぬところで髭のT店長と再会した。扱うものはイタリアの雰囲気が漂うものが多かったがT店長の服装は相変わらず細身の1プリーツトラウザーズが特徴のハケットに身を包み、セミブローグを履いて格好良かった。フルブローグもセミブローグもある程度の年齢の男が履いて初めて様になる靴なのだろう。今はもう勇退したであろう髭のTさん、できることならば男の身嗜みについてまた語り合えたらと思う。その時はダブルのスーツならセミブローグをシングルのスーツならフルブローグを履いていくつもりだ。

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誂え靴(Bespoke shoes)」カテゴリの記事

コメント

こんちちは。素敵な黒靴達ですね。他人にはわからない小さな違いを楽しむのは究極の贅沢でありオシャレですね。私にもスーツの着こなしを教えてくれたセレクトショップの店長さんがいます。アローズの名古屋→九州→名古屋→エディフィスの名古屋→渋谷→丸の内→内勤と異動され、最近では店頭に立つ事はなくなり、東京に行った折にもあうことは出来なくなりましたが、雑誌などで見かける度に昔の思い出が蘇ってきます。あと、別件ですが教えて下さい。クレバリーのレイジーマンの踵部はシームレスですか?イミテーションの踵はシームレスに出来るのかどうか知りたいです。私ははじめてのオーダーをフォスターでお願いしました。スタイルはタン色のレイジーマンですが、フィッテング等の問題や甲まわりにシワが入りやすい等の理由からイミテーションステッチはやめました。

jubilee39msさん

コメントを頂き有難う御座います。

jubilee39msさんにも親しくしていたショップの店長さんがいらしたのですね。その方も店舗を色々と変わられたようですが、仕事とはいえ異動や転職などさぞ大変だったかと思います。

さてクレバリーのレイジーマンですが踵はシームレスではありません。イミテーションの踵をシームレスにすることはできるでしょうが、それは紐靴の場合に限ってだと想像しています。レイジーマンではシームレスヒールにすると(足をホールドする力が)弱くなってしまうといったようなことを松田さんが話されていたと記憶しています。

ですので、まだ届いていないので何とも言えませんが、もしかしたら私のレイジーマンもイミテーションではないかもしれません。(すいません、最近オーダーの仕様をよく覚えていないことが多くなっています。)ただ問題は革を重ねるストロングタイプのフルブローグでレイジーマンにすると革を重ねた甲部分の厚さにエラスティックが負けてしまうこともありそうです。セミブローグのレイジーマンならば大丈夫そうですが。

レイジーマンの件、回答いただきありがとうございます。今後のオーダーの参考にさせていただきます。今後もいろいろと教えて下さい。

jubilee39msさん

返信有難う御座いました。

チョークストライプのスーツにレイジーマンの組み合わせは実にロンドンっぽくて大好きです。

ぜひトライされてみてください。

つま先にもいろんな型があるのは知っておりましたが、その中で思い出があるのはチゼルトウです。プレーンな一般的なつま先がほとんでですが大好きなイーストコーストのトウは若干他のリーガルに比べましたら少し角ばっていました。チゼルとはもちろんノミ(石を砕く鉄製の金具)の事です。私の職種で使用する建設機械のバックホーの先端のバケットの代わりにコンクリートや岩を砕く際に使用する大型のブレーカー(俗にアイヨンと呼びます)のチゼルにも先が円錐型や一文字の鏨タイプ、また砕石場で使用する円柱型などがありまして親近感感じておりました。建設機械の展示会で人力使用のブレーカー購入した際にメーカーの人とデーラー三人で値段交渉の後にチゼルは鏨(たがね)タイプを付けてくれと言いましたら担当がさすが浦野さんノミと言わずにチゼルと言う!やはり違いますねと言われて(ニッコリ)したのを思い出しました。今回もまた関係ない書き込み失礼しました。

浦野亮祐様

靴のチゼルトゥからノミのイメージを広げ、機械の注文時に生かしたというところが服飾愛好家の浦野亮祐様ならではです。また、担当の方もチゼルという言葉を日常使っておられるからこそ、成り立った会話でもあります。

ポールスチュアートのNY店を訪問した時、靴売り場にいた年配の店員さんと英国の靴ファクトリーについてついつい話が弾み、その店員さんから「ファション業界の方ですか?」と聞かれました。

ちょっとした言葉がきっかけで会話が弾むことってよくあるよなぁと改めて思い返しています。

いやはやお恥ずかしい限りです。しかしこうして管理人様のブログ拝見させていただいておりますとファッション用語が我々の仕事で使う言葉と共通するのが結構見受けれれます。たとえば管理人様所有のレース無のサイドにゴム施工を施しまして足入れがしやすいようにエラスチック加工のエラスはコンクリート構造物が夏場の高温で収縮しクラックが入るのを防ぐために擁壁やコンクリートブロックでは9メートル以内にハメる収縮防止剤をエラスタイトと呼びます。コンクリート舗装におきましては5メートル以内と言うのが国土交通省の使用にうたってあります。管理人様のこのサイドエラステックの靴を拝見して伸びると言うのかと解ったしだいです。それまではエラスと言うのは目地材とばかり思っておりました。そういえば昔のエラスタイトは100%油脂で出来ておりましたので夏場になると目地材がはみ出ておりました 今ではケンタイトと申しまして油脂の中にのこ屑などを混ぜ合わせた物に変わりはみ出ることはなくなりました。今度会社で社員にエラスと言うのは伸びるって言うんだよと教えてやります。(笑い)

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