Cashmere Coat(カシミヤのコート)
今のようにインターネットによるオンラインショッピングが主流になる前、ファックスや手紙でカタログを取り寄せ、個人輸入するのが流行った時期がある。JETRO池袋で情報を仕入れたり「個人輸入のノウハウ本」を読んだりして、N.Y.のポールスチュアートに初めて注文したのが1993年、今よりもずっと時間はかかったが届いた時の喜びも大きかった。その2年後、海外に駐在するようになると日本のように靴に対する高関税がなかったこともあって、パリのジョン・ロブ(既成)やノーザンプトンのE.グリーン(ファクトリー)、N.Y.のB.ブラザーズ本店(オールデン製の靴)などに注文を出し盛んに個人輸入を行うようになった。
やがてリーバイスの直輸入やスコティッシュカシミヤ製品などの衣料品にも範囲を広げながら海外で迎えた新年。ハロッズのセールカタログを見て、直ぐにバーバリーのロンドン本店にファックスを送った。同じようにセールの案内が届き、何と普段1600£のカシミヤコートが半額の800£になっていた。当時は今よりもポンドが強く(1£=200円位)半額とはいえ16万円強、現物を見たことも試着したこともなかったが思い切ってオーダーを入れてみた。後にも先にも最も高価な一見の買い物になったが、今回はその思い出深い個人輸入のカシミヤコートを紹介しようと思う。
1.カシミヤのコート
1996年の英国製シングルチェスターフィールドコート、セールカタログにはボルドーのタートルネックとブラウンがかったグレーのチェックパンツにスェードの靴を履いたコーディネイトの写真が載っていて中々恰好良かった。ここでは前回紹介したグレイフランネルスーツの上に羽織らせてみたが、チャコールグレイのフランネル素材ととキャメルカラーカシミヤコートは色の相性はもとより素材感もマッチするようだ。
2.カシミヤマフラーのレイヤード
カシミヤコートの上にカシミヤのマフラーを重ねる。チェスターフィールドコートはVゾーンの開きが大きいため、寒い日は首下を覆うマフラーが何といっても重宝する。度々登場するブラックウォッチのカシミヤマフラーもまた個人輸入したもので、異なる色目のチェックマフラーを何枚も購入した。橙や赤のタータンチェック、薄茶やネイビーの無地色々合わせてみたがキャメル色に最も合うのがこのブラックウォッチだった。
3.コートのVゾーン
襟を立てマフラーを首から掛ける。ピンクのタイはキャメルとの相性も良いようだ。ブルーの地にホワイトとピンクのシャツ周り、キャメルにグリーン(チェックの中にはブラックとブルーも含まれる)のVゾーン周辺と多色遣いになってはいるが、面積の違いや色の関係(補色など)もあって上手くまとまっている。余談だが、ロンドンで見かけるスーツ姿の紳士は意図的なのだろうか、ネクタイだけ特に浮くような合わせを敢えてしているようにも見える。時々自分でもやってみようと思うのだがこれがまた結構難しい。
4.コートのディテール(その1)
身頃の左右にフラップ付きの両玉縁ポケット、フラップ端は星ステッチの処理を施していない。また、胸部分の箱ポケットは付いていないのでペッカリーのグローブを挿してアクセントにするなどという着こなしが楽しめないのは残念。もっとも既成のコートに加え英国製ということを考えるとイタリアのファクトリーのような器用さは望むべきではないだろう。それでもカシミヤ100%の地厚な素材はロンドンの老舗らしさを感じさせる。
5.カシミヤのマフラータグ
スコッチハウスは英国内では親会社がバーバリーに経営を集中するため、既に消滅したブランドだが、1990年代終わり頃はナイツブリッジのバーバリーブティック店内でコーナー展開していた。日本ではライセンシーをもつアパレル会社が今も扱っているようだが、本国の商品とは全くの別物。個人輸入したこのマフラーも今や貴重な英国製品の一つということになる。残念なことだがここ10年でいくつかの英国ブランドが姿を消しているようだ。
6.コートのタグ
バーバリー・ロンドンは1989年に別会社に買収され、創業以来の独立企業に別れを告げたが、1990年代中頃まではプローサム(1997年スタート)などサブブランドを展開することなく、昔のバーバリーらしさが残っていた。上部のタグは旧バーバリーのトレンチコートを所有している人には懐かしいはず。バーバリーだけでなく世界中の様々なブランドがロゴを変えたが、なぜか「どれも昔の方がよかったのに」と思ってしまうのは、自分が古くさい客ということなのだろう。
7.コートとスーツの相性
コートのボタンを外すとチャコールグレイの霜降りフランネルのスーツ地がキャメルカラーのカシミヤコートから覗く。この組み合わせ、よく考えるともともとキャメルヘアのブレザーとチャコールグレイのフランネルパンツのコーディネイトで見慣れてきたもので、昔からアイビーやアメリカントラッドの装いで実践してきたものだった。やはり昔の経験は色々なところに表れるらしい。
8.コートの袖口
コートのカフ周りの処理はホーンボタンを使ってはいるものの、いかにも既成のコートらしい処理になっている。チェスターバリーが縫製を請け負っているのではないかと友人が指摘したが、実際のところは分からない。ただ当時から英国の既成服メイカーはあまりなく、高級品はチェスターバリーで、それ以外はハケットもコーディングスもアクアスキュータムも同じ工場で作られていたようだ。
9.靴のコーディネイト
キャメルのコートには茶色の靴が一番、それもコートより暗い色目に限るが、さりとてコーヒーブラウンでは暗すぎる。写真のようにタバコブラウンのスェードかやや赤みがかったチェスナッツ色が合うようだ。左はジョンロブ・パリの既成フィリップⅡでこれもロンドンから個人輸入したもの。右のフルブローグダービーも英国で注文して送ってもらったもの。改めて見回すと周囲には随分と個人輸入したものがあることに気が付く。
10.既成靴とビスポーク靴
誂えのスーツに既成のコート。装いを考えるときは誂えと既成を区別せず、気に入った物を組み合わせている。靴も当然ながらレディメイドやカスタムの中からマッチするものを選ぶようにしているが、全体に占める割合が低くとも靴は装いのキーアイテム、胴の絞りの強い英国調の服にはウェストのくびれが大きい靴がマッチする。となるとオールデンよりもべヴェルドウェイストのジョンロブ・プレステージ、または誂えの靴を選ぶようになる。
最近は海外から馴染みのテイラーやシューメイカーが来日するので、スーツやジャケット、コートなどの重衣料を個人輸入することはなくなったが、その分カジュアルウェアやラギットなブーツなどを探しては郵送してもらっている。残念なことに代理店の関係だろうか、バーバリーやジョンロブ、オールデンやウールリッチ、ラルフローレンなど魅力的なブランドの多くが日本への発送を受け付けていない。
海外駐在時は全てフリーで物を輸入することができたことを考えると、帰国後は日本での生活に窮屈さを感じることもあった。今では元の生活にすっかり慣れてしまったが、個人輸入した品々を見返す度に当時のショップとのやり取りや価格など様々なことが鮮明に蘇る。クリックするだけで世界の逸品が素早く手に入る便利な時代になったが、手紙を送ったり国際電話で再度確認したり、苦労しながら手に入れた頃がなぜか懐かしく、また買い物をしているという喜びを味わえたような気もする。
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コメント
自分も"Carmel"からAldenを個人輸入した際、日本への直送を受けてもらえず、Tranship業者を経由するなどして手間が掛かった覚えがありますが、E-Mailがない時代は尚更苦労された事と想像します。手に入れるのに苦労すればする程、モノに愛着が湧いてしまいますね。
投稿: シロ | 2011年10月14日 (金) 20時17分
シロさん
コメントを有難うございます。
カーメルから初めて輸入したころは海外駐在時でしたが問題なく送ってくれましたし、日本に帰ってからも暫くは全く問題なかったのです。それがいつの間にかカーメルは日本にオールデンの製品を送らなくなりました。
日本の代理店等との問題でもあったのでしょうか。これだけオンラインショップが普及している今、日本は窮屈ですね。iphoneも複数のキャリアが扱う時代です。代理店が独占するスタイルも変わって欲しいと思います。
投稿: 管理人 | 2011年10月15日 (土) 08時48分