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2011年1月 1日 (土)

フォーブルサンタントワーヌ74番地No.1

フォーブルサンタントワーヌ74番地。ジョンロブ・パリのビスポークアトリエの住所である。今から10年前、ミレニアムに沸いた2001年の3月末、パリに入った。完成しているはずのビスポーク3足目が出来上がっていないとの連絡を受けたのは旅行の数週間前だったが、今更旅行をキャンセルする訳にも行かず、せめて「ビスポークのアトリエを見せてほしい」と頼んでおいた。ホテルに入り、翌朝、担当の職人パトリス・ロック氏に電話したところ、アトリエで待っているとのことで、タクシーに乗って冒頭の住所を告げた。

建物の前につくと特に看板もない。とりあえずタクシーを降り、周りを見ると入り口の壁に74の数字が見える。どうやら間違いなさそうだ。入ると大きな中庭が現われ、建物が中庭をぐるりと囲んでいる。右側の建物に懐かしいJLの文字を見つけた。ジョンロブ・パリのビスポークアトリエだ。ドアを開けると髭を生やしていたはいたが、パリや東京で何回も顔を合わせたパトリスの懐かしい姿と再会した。

2011年、新年最初のブログは今から10年前、日本の雑誌が取材に来るよりも昔、ジョンロブ・パリのアトリエを訪問した時の様子を何回かに分けて紹介しながら、この10年間の誂え靴の世界を振り返ってみようと思う。

John Lobb paris bespoke atelier tour in 2001 Spring

1 アトリエの入り口

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レンガ造りの壁は低く、日光が大量に差し込むよう窓を大きくとっている。後から分かったことだが、ファクトリーの窓はこちら側にしかないようだった。快適な場所から優れた靴が生まれるということなのだろう。アトリエの中は思った以上に広く明るく、整然としていた。因みにこのアトリエの2階ではエルメスのバッグが作られているとのことで、上からは時折楽しそうな女性たちの笑い声が聞こえていた。

2 ラストやツリーとなる木のブロック

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大量に積み上げられた木のブロック。前では職人さんが陽気にシューツリーを削っていた。予め皆に伝えておいたのだろうか、どのセクションを回っても絵になる写真が撮れた。この部屋の隣はラストを削る部屋、更にツリーを削るグラインダーがあるスペースなど、パトリスの計らいでラストメイキングのセクションから見学ができた。正にLast must come firstといったところだ。

3 グラインダーブース

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ラストメイキングセクションの中ほどにグラインダーのブースがある。削る時の音が大きいためだろう、ブースで囲って音が漏れないようにし、さらに職人はヘッドフォンを被って作業を行っていた。最初に述べたように快適な仕事環境を重視しているということがアトリエのあちこちから伝わってくる。エルメスが職人を大切にするブランドだということを実際にこの目で確かめることができた。

4 ラストメイキング

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並べられているラストは革が乗せられていることから木型に修正を加えているのではないかと思う。中には1足作って改良されているものから、長い年月がたって注文主の足型が微妙に変化したものまで、色々な理由があると想像していたが、生憎このセクションの責任者であろうパトリス本人が私をアテンドしているので作業机だけを撮っておいた。このスペースも明るい光が差し込む窓側に机が置かれそちらに向かって仕事ができるようスペースがとられている。手前にあるのは木製の万力だろうか。

5 ラフターン

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大まかに削ったラストはどれも同じ大きさと形をしている。英国でラフターンと呼ばれるものだろうか。クレバリーの工房で見たベーシックラストは71/2と言ったサイズ表記があり、注文主の足の大きさに最も近い木型を選んで仕上げるとのことだったが、ジョンロブ・パリではより手間のかかるラフターンを採用しているようだった。ラスト作りの考え方はメゾンによって異なるだろうが、ジョンロブ・パリのラスト作りはかなり手間をかけているようだ。

6 デモンストレーション

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コンパニオン出身のパトリスらしく、殆どの工程も熟知しているのだろう。彼が木型の削り方をデモンストレーションしてくれた。小型だがギロチンブレードと呼ばれる鉈の片方が金具で止められたものを使う。自在に鉈のアングルを決め、ラストを鉈にそって置き、削っていくようだ。ハンドメイドシューズフォーメンによれば、この段階では特に足の全長(レングス)と周囲(ガース)を中心に靴のタイプを加味してラストメイキングを行うようだ。

7 小道具

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何種類もの棒ヤスリが並んでいる。目の粗いものから細かいものまで並んでいた。その上にある丸い筒状のものは、やや太めの木の丸棒に紙やすりを巻きつけたもの。やはりラストを削るのに使うのだろう。黄色のメジャーは下のシートに記されている顧客の足のメジャリングデータと比べ、さらに細かく削っては計測する時に使うのかもしれない。ラストメイキングに十分な時間をかけている雰囲気が伝わるセクションだった。

8 パターンメイキング

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外部の光に背を向け、こちらに目線を送っている職人はパタンナーとでも呼ぶのだろうか。一人一人の顧客のラストに注文の入った靴のパターンを描き、型紙にするのが仕事のようだ。どんなラストでも一番バランスがよく美しい靴に仕上がるようにしてクリッカーに渡す。簡単なようだが注文主にとっては「ここでいい仕事をしてくれなくては」という気持ちになるセクションだ。余談だがこの奥に革のストック棚がある。

9 マイパターン

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ついでに自分が注文した靴のパターンを見せてもらった。1足目から3足目まで全て揃っていて、パーフォレーションも実物と同じ大きさだ。普通なら一度作った靴のスタイルで2足目を作るということはあまりないのではと思ってしまったが大いなる過ちだった。ジョンロブパリにオーダーする顧客の中には同じデザインで何足もオーダーしたり、黒と茶色で2足オーダーしたり、更にはデザインは同じでつま先のシェイプだけを変えたりといったように1度使ったパターンが役に立つオーダーの仕方をするクラスの人達が存在するらしい。

10 クリッキング

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こちらはクリッカーのための作業台。ちょうど1足分のアッパーの型抜きが終了したところで、箱の中には必要なパーツに既にライニングが挟みこまれた状態になっている。この箱と仕様書がセットになってクローザーのところに運ばれると、クローザーはパーツを組み合わせて縫い合わせる。そして出来上がった「アッパーのひらき」をラスティング&ボトムメイキングへと引き継ぐ。写真奥に写っているクロコダイルの素材は中々良いものだった。

この時のアトリエ訪問と写真撮影はビスポークの靴の受け渡しが予定を大幅に遅れたことや、受け取りにパリまで来て何も応対せずそのまま「お引き取り願う」のもジョンロブとして忸怩たる思いがあったのだろうか、当時の最高責任者フィリップ・アティエンツァ氏がゴーサインを出し、更にウェブサイトへの掲載も許可してくれたことから現在に至っている。そのフィリップ氏もマサロに移り、担当だったパトリスもベルルッティに移った。勿論エルメス本店で対応してくれたアラン・サザラン氏も今はいない。この10年でジョンロブ・パリのビスポーク部門もまた大きく変わったようだ。最近メンズExが初公開といってこのビスポークアトリエを紹介していたようだが最近のメンバーは誰も知らないので、かなり人が入れ替わったことが分かる。勿論初公開が間違っていることもだが。

この10年で、国内価格は論外だがパリもロンドンも誂え価格が大幅に上昇した。ジョンロブは別格という路線を明確にしようとしているのだろうか。ジョンロブ・パリの靴作りはアウトワーカーに出すロンドンのビスポークメイカーとは違って、殆どを自社で賄っているという強みがある。実際ジョンロブパリのビスポークを英国のビスポークメイカーの職人に見せると、クローザーの腕の高さ、靴全体の仕上がりの良さを褒めていた。ロブ・パリのやり方は確かに別格かもしれない。「細部まで作り込まれ、整然としている」靴、というのがジョンロブ・パリの印象だった。

この続きは次回以降のブログで紹介していきたい。

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誂え靴(Bespoke shoes)」カテゴリの記事

コメント

喪中につき新年のご挨拶は失礼させて頂きます。

最近誂え靴の話題はよく聞きますが、靴が浮いているコーディネートが多く見受けられます。
私は靴はスラックスの延長と父に教えられ、未だにそのように心がけて居ます(古いかも知れませんね)。
その点管理人さんのコーディネートからは安心して見て居られますね。

今年もよろしくお願いします。

musellwhiteさん

コメントを頂き有難うございます。
メンズクラブ(昔のトラッド一辺倒だった頃のものです)にもそのようなアドバイスが載っていたことを改めて思い出しました。お父様は的確な助言をさりげなく伝えることが出来る素晴らしい方ではないかと想像いたしました。

トラウザーズの延長であるのに加えて、間には靴下があるので、コーディネートは中々悩ましいと感じることがあります。足元をしっかり固めること、心がけたいと思います。

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