Trim fit(細身のジャケット)
ブルックスブラザーズと並んでアメリカントラディショナルを代表するJ.プレスの110thアニバーサリーモデルをご存じだろうか。今までのサックスタイルを見慣れたトラッドファンの間では色々な意見が出ているようだが、ウェスト周辺がぐっと絞られた中々エレガントなスタイルだ。J.プレスのウェブサイトでは110thモデルをTrim-Fitと表現しているが、調べてみたところTrimという言葉には「すらっとした。ほっそりとした」という意味がある。目下主流のSlim-Fitと同義語なのだろう。
麻袋のように寸胴なサックジャケットはこのところタイトシルエットが主流とあってか、ブルックスブラザーズの路面店を訪ねても殆ど見かけることはない。そんな中で冒頭に述べたJ.プレスのトリムフィットが今の時代に適応(フィット)したデザインとしてとても興味をそそられた。そこで、今回はアメリカントラッド調のネイビーブレザーを工房に出し、トリムフィットに補正し直したものを紹介しながら、ニュー・アメリカントラディショナルを考えてみたい。
1.トリムフィットブレザー
日本別注のブレザーはイタリアはベルヴェストのもの。2ツ釦ながらウェルトシームにセンターベントというアメリカントラッドの雰囲気満載だ。コルト丈で仕上げたところなどトム・ブラウンの雰囲気も取り入れているらしい。今回の直しではウェスト部分を3㎝ずつ合計6㎝詰めたのでかなりトリムフィットになっている。ただしトラッドならではの約束、ボタンダウンシャツとレジメンタルタイにノープリーツのパンツには拘ってみた。
2.ジャケットのシルエット
手持ちのジャケットがどことなく古臭いと感じたら、ぜひウェスト部分の直しをお薦めする。ボタンを留めなくともウェストにフィットしたジャケットは、後ろから見ただけでぐっと恰好よくなるからだ。ゴージラインやラペルの幅を修正するとなると料金も上がるがウェスト詰めならば決して高くはない。昔の服は大体がウェストが緩めなのでここを直すだけでも見違えるようになる。
3.Vゾーン
ラペルの端、ウェルトシームの幅は4㎜で、ゴージの高さではイタリアのファクトリーらしさが出ているもののアメリカントラッドらしい仕上がりのブレザー。ボタンダウンももちろんイタリア製、1990年代初期のルイジ・ボレッリを合わせてみた。シャツの襟が開き気味で一時期はかなりワイドなものが主流だったイタリアのボタンダウンシャツだが、この頃のボレッリはオーソドックスで手仕事の多い真面目なシャツを作っていた時代だった。
4.ウェストサプレッション
ウェスト部分を身体に合わせて絞りを入れるだけで、横から見たときの服のフィット感がぐっと違ってくるのがよくわかる。レディメイドと言えども直しに出して自分の体にフィットさせるだけで、既製服特有の万人向けシルエットから誂え服に近い雰囲気に変わってくる。装いのポイントは既製服であるか仕立て服であるか、機械縫いであるか手縫いであるかということではなく、よく言われることだが「如何に自分の体にフィットしているか」ということなのだろう。
5.タイ&チーフ
ネクタイはプレッピースタイルを盛んにプッシュしているポロ・ラルフローレンのもの。アメリカのブランドらしくレジメンタルタイはお得意だが実はジャケットやシャツ同様イタリア製。オレンジとレッドの中間に近い独特の色目はVゾーンに活力を与えてくれる。一方ポケットチーフはナポリのフィナモレ。こちらもリネン製品ながら綺麗な色出しに惹かれて購入。タイとチーフの色目を近いものにしてみた。
6.ジャケットの縫製
ジャケットはベルベストに都内デパートが別注をかけたもの。品揃えと企画品の面白さに定評がある大型店だが、ここには以前6釦のブルックス復刻ボタンダウン でも紹介したとおり、買ってみたいと思わせる商品がよくある。このジャケットも大身返しでアンコン仕立てに近く、軽い着心地ながらがテイラードジャケットらしさを保っているところが気に入っている。アメトラ好きにも受け入れられるイタリアものといった感じだ。
7.ジャケットの素材
ジャケット素材は繊維と繊維の間に隙間のあるメッシュ調。ウール100%だが織りとの関係だろうか、生地自体に伸縮性があるようだ。イタリア製らしく胸ポケットはバルカ気味だが、薄い肩パッドのみの肩と袖付け部分はナチュラルショルダー風に見える。着心地はブルックスのオウンメイクよりも快適で、このあたりはイタリアのメイカーが最も得意とするところ。特にベルヴェストは商品改良や着心地、見栄えに力を入れていると感じる。
8.ウェスト部分とプレーンフロントパンツ
コードヴァンのベルトは国産。KTルイストンのものとよく似た作りだ。今回は黒のコードヴァンベルトを選択、靴は黒のスリッポンを合わせている。パンツはプレーンフロントでスリムフィットの代名詞ともなった元祖美脚パンツのインコテックスのJ35。強撚糸の生地なのだろうか、コシとハリがあって皺になりにくく、しクリースも消えにくい。グレンチェック柄は春夏の定番1本あると便利だ。
9.本切羽
最近の直しは技術が高くなっている。写真右を見ると分かるが、袖を詰める際に切羽が足りなくなった場合、根元部分に切羽を継ぎ足してボタンスペースを確保している。お蔭でボタンホールが4つとも全て本開きにできる。ボタンは随分前にベンソン&クレッグから取り寄せた英国製のブレザーボタン。最初はクロームボタンだったが、金ボタンにすると華やかさが増すようだ。
10.ブラック・スリッポン
黒のスリッポンはブレザールックにこそ最適ということで、前回紹介したリザード・スリッポンと30年近く現役のカーフ・ローファーを用意した。こうしてみるとカーフの方が光沢があって、寧ろリザードの方が控えめに見えなくもない。久しぶりに合わせてみた黒のスリッポンは思ったよりも新鮮で、これならば時々履いてもよさそうだ。
11.英仏傑作シューズ
左のローファーはJM.ウェストンのシグネチャーローファー。1980年代のもので間もなく30年を迎えようという古参靴。一方右のリザードスリッポンはレストア後新品同様になって返ってはきたが1990年代中頃のもので、間もなく20年を迎えようという靴。20~30年経っても履ける靴は鞄と同じように身嗜みの中で投資するに値するアイテムの一つ。既成靴といえども材質がよく作りの丁寧なものを選ぶのが結局は賢い買い物になる。
このところエクストラスリムフィットのシャツやスリムフィットのトラウザーズ、ウェストの絞りが強いジャケットを着る機会がぐっと増えた。そうなると今まで着ていたものがどれも緩く感じられる。特にトリムフィットのジャケットの下では、昔ながらの生地をたっぷりとったシャツではもたついてしかたない。かといってシャツやトラウザーズを直しに出すのは量的に大変なので、ジャケットやせいぜいスーツをトリムフィットに直す程度だろうか。
それでも購入した既成服をそのまま着るのではなく、身体にフィットするよう直しを入れるだけで、新しい服が1着増えたかと思うほど新鮮になって甦る。誂えのペースが限られているので、新しく既製服を買い足してはいるが、クローゼットの中に入るワードローブの量には限度がある。手持ちの服を直しに出すことで有効活用ができるのではと目下3着の服を直しに出しているところだ。近いうちに続編を紹介できたらと考えている。
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